桜が美しいと思えるわけ

今日、気象台は東京都心の桜が開花したと発表した。昨年より6日遅く、平年より4日早い。今シーズンの全国の桜は、17日の福岡での開花が最も早かった。日本気象協会は、名古屋市で21日、大阪市で23日の開花を見込んでいる。

気象庁の定義する「桜の開花」とは、各地の気象台が標本としている特定の桜の木で5、6輪の開花が認められたことである。したがって、発表直後は標本木の大半はつぼみである。また、同じ地域でも標本木以外では咲いていないということもありうる。

河津桜(20日、静岡県、筆者撮影)

上の写真を見ていただきたい。これは今日、静岡県内で私が撮影したものである。つぼみはすでに開いており、一部は花が散って葉が出ている。東京都心でやっと5、6輪咲いた日になぜこのような写真が撮れたのか。

実は、ここに写っているのはソメイヨシノではない。河津桜(かわづざくら)という品種だ。気象庁が開花を宣言する桜は主にソメイヨシノであり、それがほかの桜の開花時期と一致するとは限らない。

河津桜は、静岡県の伊豆半島の南東部に位置する河津町が由来だ。1955年、同町に住む女性が自宅の庭で高さ1mの幼木を見つけたのが始まりで、これが河津桜第1号。台湾などが原産のカンヒザクラと伊豆半島などが特産のオオシマザクラがこの庭で自然に交配して生まれた。

河津桜はかなり早咲きで、開花時期は2月初旬~3月初旬。春の訪れをいち早く告げることから観光資源として重用され、同町には現在約8000本が植えられている。河津桜まつりでは、コロナ禍の前までは首都圏などから1か月で90万人が訪れた。家の庭から、何十万もの人を呼び込む木が生まれるとは夢があるなあと思う。

桜の種類は、開花時期の違いだけではない。散り方もさまざまだ。例えば、カンヒザクラは、花びらのつけ根の部分の「萼(がく)」と花びらがくっついた状態でボトっと落ちる。そのため、ソメイヨシノのように花びら一枚一枚が風に舞うようなことはない。

種類によって色も違う。サクラの色と言えばピンクというイメージをもたれがちだが、カンヒザクラは紅色で、河津桜も色にむらがある。

カンヒザクラ系統の品種。紅色で下向きに咲く。(20日、静岡県、筆者撮影)

これまで私は、国内での栽培本数が最も多いソメイヨシノと梅の花の違いくらいしか分からなかった。でも、桜にもいろいろな種類があり、ソメイヨシノの特徴が必ずしも他の桜に当てはまるわけではないということに気づいた。特に、ソメイヨシノの花の色は、桜全体の中でかなり薄く白に近い。

別れの3月には、色が濃くて鮮やかな河津桜やカンヒザクラ。新しい生活が始まる4月に、淡い色のソメイヨシノ。偶然だけれど、人間のライフスタイルに合わせたかのような色のチョイスだ。人々が桜に魅せられるのは、実はこういったところに理由があるのかもしれない。

ソメイヨシノ(環境省HPより)

参考記事:

朝日新聞デジタル2022年3月20日 「都心でサクラ開花 平年より4日早く、気象台発表」

読売新聞オンライン2021年1月20日 「花見客90万人の「河津桜まつり」中止に…駐車場は大幅制限」

 

参考資料:

環境省 皇居外苑フォトアルバム ソメイヨシノ

河津町観光協会 「河津桜」

近田文弘『桜の樹木学』、技術評論社、2016年。

大原隆明『サクラ ハンドブック』、文一総合出版、2009年。

井筒清次『桜の雑学辞典』、日本実業出版社、2007年。