頭全体を入れても余るほどの大きな毛皮の黒帽子に真っ赤な兵隊服がトレードマーク。まるで人形のようにキビキビと足並みを揃えて歩く兵士たちは、ロンドン名物としていまだ不動の人気を誇っています。ロイヤルファミリーの住まいとして最もよく知られるバッキンガム宮殿に訪れると、彼らの姿を見ることができました。
◆バッキンガム宮殿での兵士の恒例行事
エリザベス女王が今月6日に即位70年を迎えたことで、国中がお祝いムードに包まれています。そんななか、バッキンガム宮殿での衛兵交代式には、平日にもかかわらず多くの外国人観光客が大勢いました。宮殿では、夏は毎日、冬は月水金日の午前11時頃から約1時間にわたって交代式を行っており、兵士たちを間近で見ることができます。
午前11時前には音楽とともに行進の音が聞こえ、馬に乗る兵士に導かれながら続々と新たな兵士たちがバッキンガム宮殿の門の中へと入っていきます。その後、宮殿の敷地内で恒例の儀式や演奏が行われ、一般人は門の外からその様子を見守ることになります。中には入れないので、宮殿の外では少しでも近くで一目でも見ようと柵に押し寄せる人々で溢れていました。
真っ赤な正装を期待していたのですが、実際に現れたのは、グレーのコートを着た兵隊たち。近場のお土産屋さんのおばちゃんに聞くと、「赤い服は夏場だけだよ。イースターの時期にグレーから赤に戻るんだ」と言われました。たしかにイギリスの冬は日本と同じくらい寒いので、何か着込みたくなるのも納得できますが、あの伝統的な赤いジャケットが夏用だとは知りませんでした。むしろ夏に長袖と毛皮の帽子を着ていて暑苦しくないのでしょうか…。
◆観光客に無礼?兵士の実態とは
さて、近衛兵についてですが、皆さんは英国の兵士にどんなイメージがありますか。何があっても冷静さを忘れず、まるでロボットのような平常心を保つ兵隊に、「本当に人間なのか?」とつい疑ってしまう人もいるのではないでしょうか。いつも直立不動の姿勢で、観光客と話すことはもちろん、笑顔を見せることもありません。なぜなら、兵士たるもの、怖いイメージがないと、国の威厳を損ねてしまうからです。外国の入国審査官に冷たい印象を持つのと同じで、軽く侮られないようにあえて不機嫌にみせているのです。
近年YouTubeなどにアップロードされている動画からは、面白おかしなことをする観光客につい笑顔を見せてしまう瞬間や足を滑らせて転倒する様子など思わずクスっと笑ってしまう人間らしい姿も垣間見えてきています。しかし、その一方で、冷やかし目的の観光客に脅すように小銃を向ける兵士や大声で怒鳴りつける兵士たちの威風も、動画を見る限りいまだ健在のようでした。
観光客に激しい口調で叱責するイメージに多少の恐れを抱きながらも、実際にバッキンガム宮殿の前で一人立哨をしている兵士を近くで見たときは、高揚感が抑えられませんでした。しかし、勝手に撮影してよいものなのか分からず、「すみません」と声をかけると、やはり無視をされました。
仕事中なので仕方がないと半ば諦めてしまいました。それでも門の近くで5分ほど様子を伺っていると、話したそうにしている様子を察してくれたのか、他の警備員と話を終えた兵士がなんとこちらに目を合わせてくれました。今がチャンスだと思った筆者がすかさず、「写真撮っても大丈夫ですか?」と聞くと、ほんの少しだけ普段のしかめ面を緩め、気づくか気づかないくらいの加減でかすかに頷いてくれました。
頷いた以外は特に何かあるわけでもなく、写真を撮影した後も兵士は微動だにせずその場に立っていました。「ありがとう!」と最後に声をかけても反応は返ってきませんでしたが、兵士の優しさを感じました。彼らには女王を守るという重大な職務があります。とはいえ、仕事を妨害しない程度であれば、紳士的に対応してくれる人もいることが分かりました。
ホストファザーである元警察官のイギリス人男性は、近衛兵について「警察とはまた役割が異なるが、ただの見世物ではなく人を守る高貴な仕事だ。彼らは皆プライドを持ってあの仕事をやっており、近衛兵になるのはとても誇らしいことなんだよ」と言っていました。
英国の半世紀以上の歴史を共にしたエリザベス女王と、17世紀から今も変わらぬ形で女王を守り続ける兵士たち。彼らの姿からは、何としてでも王室と伝統を守らんとする気高い誇りが伝わってきます。
参考記事:
6日付 読売新聞オンライン「95歳のエリザベス女王が即位70年、英史上最長の在位更新中「人生をささげることを改めて誓う」」
参考資料: