米中・中台関係は今年どうなる? 各紙の視点

新聞社は、毎年元日の紙面で1年の見通しや課題を提示します。政治部、経済部、社会部など各部門が総力を上げて執筆するので、読み応え満点です。今年、各紙の姿勢の違いが最も濃く表れたのは、国際分野でした。

読売新聞は、3面の社説で日中・中台関係について取り上げました。中国が軍事力を大幅に増強している現状を踏まえ、日中の友好関係を維持しながらも、軍事的緊張への対処と緊張緩和への努力が必要だと主張しています。中国に開戦を決断させないためには、日本自身の防衛努力と日米同盟関係の強化によって、「開戦したら甚大な被害を被る」ことを認識させることが不可欠だと唱えました。

4面は安倍元首相による寄稿。「今年最大の焦点は台湾情勢」だと改めて明言。日米同盟だけでなく、日米豪印のQUADをはじめとした多国間の安全保障協力を進め、東アジアに関わる国を増やす必要があると述べています。特筆すべきは「中露の連携を断つ外交を展開し、日露の関係改善を進めるべき」と主張していることです。権威主義体制を維持し、北方領土問題も抱えるロシアと関係改善を目指すのは、珍しい考えだと感じました。

日経新聞は、欧州の中国に対する姿勢を5面で特集しています。鍵になる人物として、欧州議会のビュティコファー議員、イギリス労働党のレイナー副党首、リトアニアのナウセーダ大統領の3人を取り上げました。欧州の左派勢力の中で頭角を現しているビュティコファー氏やレイナー氏は、人権や民主主義といった側面で中国を問題視しているようです。

また、リトアニアはソ連支配時代の苦い経験から、共産主義や権威主義体制に強い拒否感を有しています。昨年、台湾との外交関係を強化したことで、国際社会で一目置かれる存在になりました。これら諸勢力の躍進により、欧州では反中国の傾向が強まっていると分析しています。15面でも、中国の経済政策や少子高齢化問題について紙幅を割きましたが、対外関係や台湾問題への言及はありませんでした。

朝日新聞は、中国・台湾問題への言及を敢えて避けました。国際面で扱われていたのは、北朝鮮人と韓国人の愛の物語、核不拡散条約の会議の開催案、中国でのコロナ感染者の増加、そして「国境を越える愛」をテーマとした映画・ドラマの紹介です。

中国が軍事力を強化していることや台湾武力侵攻の可能性について過剰反応することは、対立を煽ることになり、軍事衝突の可能性を高めてしまう。友愛の精神に基づく外交努力を最優先すべし。火に油を注ぐのではなく、冷静な対応こそが重要。このような信条が推察できました。

婉曲的な表現とはいえ、台湾武力侵攻の可能性にまで踏み込んだ読売。中国の国際的立場の悪化と内政問題について特集した日経。米中・中台関係には敢えて触れなかった朝日。紙面をじっくり比較すると、三社三様のスタンスを見てとることが出来ます。

ちなみに、昨秋に台湾で実施された世論調査では「中国による攻撃がありうる」と回答した人が28.1%に上ったそう。渦中の当事者たちは強い危機感を抱き、緊急事態への備えを進めています。2022年。平和を祈りつつも危機意識を保ち、事態を注視していきましょう。

参考資料:

1日付 読売新聞朝刊(東京13版)3面「社説 災厄越え次の一歩踏み出そう」、4面「対中連携 各国と強化を」

1日付 日経新聞朝刊(東京13版)5面「反中に傾く欧州」、15面「習政権、もろ刃の「共同富裕」」

NHKスペシャル 21年12月26日放送「台湾海峡で何が ~米中“新冷戦”と日本~

 

※お詫び:当初、朝日新聞の紙面について「読売・日経が一面で扱ったウクライナ情勢をめぐる米露間の対立を報じていない」と記していましたが、3面に載っており完全な誤りでした。該当部分は削除しました。大変申し訳ありません。お詫び申し上げます。