2年半ぶり帰省、嬉しさと戸惑いと

「我が家に帰りたい」。そう願い続けて2年半。12月上旬、ようやく実家がある島根県に帰省できた。身体が丈夫でない70代の祖父母のことを考え我慢してきた。今回帰郷したのは、宣言解除後でも都内の感染者数が減りつつあったからだ。オミクロン株が国内で確認される前に、社会人になる前にという気持ちも背中を押した。祖父母への感染リスクを下げるため家には帰らず、ホテルに泊まりながら家族に会うことに決めた。島根県の11月は、出雲大社に神様が集まる神在月。観光客が多く宿泊施設が空いていなかったため、帰省は12月になった。

<出発までの生活>

健康に帰るための外出自粛生活が始まった。出発までの2週間は不要不急の外出を控え、人との接触を避けた。オミクロン株の国内感染が確認されてからは、感染爆発が起こらないよう祈った。

出発する3日前PCR検査を受けた。検査所に行くことを避けるため、自宅で唾液を採取し、クリニックに送るタイプを選んだ。ネットショップには千円代後半から2万円近くするものまであり、大混乱。値段と精度が比例するのか分からなかった。熟考の末、空港会社と連携している医院の1万6千円のものを選んだ。郵送から結果通知までは2日ほど。陰性とメールを受け取った時には心底ほっとした。やっと会える。

ターミナルは人が多かったので、荷物検査を済ませ搭乗口近くでお土産を買った。搭乗客は意外にも多く、3人席以外はほとんど埋まっていた。非常用設備アナウンスは「酸素マスクを着ける際は、自分のマスクを外して直接口に当てるように」とコロナ禍仕様になっていた。ドリンクサービスは健在で、お隣の紳士と示し合わせたように交互にマスクを外しながら飲んだ。1時間半のフライトで出雲縁結び空港上空に。徐々に近づく滑走路を見て早くも涙が込み上げた。

2年半ぶりの出雲縁結び空港(10日筆者撮影)

 

<島根に到着>

到着後すぐ大社造の帽子、しめ縄のマフラーが特徴的なゆるキャラ「しまねっこ」のパネルに迎えられた。神話の国、ご縁の国、美肌県。帰ってきた。バスに乗り母の待つ駅へと向かう。母子2年ぶりの再会。本当は胸に飛び込みたかったが、ソーシャルディスタンスという言葉が脳裏に浮かぶ。陰性とはいえ、もしものことを考えるとどこまで近づいてよいか戸惑った。しかし実際に顔を見ると話したいことが次々に溢れてきた。最近好きになったもの、友人のこと、残り少ない学生生活のこと、来春から始まる仕事のこと。頻繁に電話で話しているはずなのに不思議なものだ。

 

島根のゆるキャラ「しまねっこ」がお出迎え(10日筆者撮影)

今回は家に帰って食事することは叶わなかったが、県独自の飲食店、生産者支援を体感することができた。その1つが、市とNPOが連携し「withコロナがんばる出雲のお店感染症対策取組店」にアマビエがあしらわれたステッカーを交付する取り組み。対策が行き届いている店をステッカーで判断できるため、利用促進につながる。ステッカーは青色と金色の2種があり、金色は専門家による現地確認を受けないと取得できない。もう1つの支援が「Go To EATキャンペーンしまね」。県内の飲食店と生産者を応援することを目的としており、加盟店で使える飲食券がお得に購入できる。家族と青色ステッカーが貼られている、Go To EAT加盟店に行った。いただいたのは、島根半島西部にある十六島(うっぷるい)という岬で取れる「十六島海苔の天ぷら」、出雲地方の定番おせち料理「赤貝煮」。

Go To EATキャンペーンしまねの加盟店を示す(13日筆者撮影)

感染症対策取組店に交付される、「金色」ステッカー(朝日新聞デジタルより)

十六島海苔の天ぷら(左)と赤貝煮(右)(11日筆者撮影)

 

2日目は市内にある「しまね花の郷」で祖父母と待ち合わせた。会ったら泣いてしまうだろうと思ってはいたが、やはり涙は止められず。元気な姿を見せ、見ることがこんなにも貴重なものになるとはコロナ禍前想像もできなかった。距離を取りながら、園内を彩る冬の花シクラメンを見て回った。隣接する「出雲市トキ分散飼育センター」で初めてトキを見た。全国で一般公開をしているのは、新潟県佐渡市、長岡市、石川県能美市、出雲市の4か所。西日本では出雲だけだ。トキが朱鷺色の羽を広げるシーンは珍しいらしく、シャッターチャンスを狙ってみたがずっとドジョウを食べてばかりいた。

出雲市の公開施設で見られるトキ(11日筆者撮影)

4日間で伯父、叔母にも会うことができた。一緒にいたのは数時間だが、会えただけでも贅沢なことだと自分に言い聞かせ、また会おうねと笑顔で別れた。

帰る日は、雪国島根らしく気温が一桁台まで下がった。出雲空港の売店でバラパンを購入。必ず食べると決めている出雲のご当地パンで、中にクリームと砂糖が塗り込まれ、名前通りバラの形に巻かれている。念願のパンを味わいながら、羽田空港内で受けられるPCR検査の空き情報を調べた。

出雲ご当地パン「バラパン」(13日筆者撮影)

羽田空港に着いてすぐにPCR検査センターへ。最短4時間で結果が出るもので価格は2千円。個別ブースの壁紙に貼られる梅干しとレモンの写真と見ながら唾液を接種した。陰性を確認し、再び胸をなでおろす。急いで祖母と母に電話した。「よかったー」と安心する声が返ってきた。筆者に会いたいという思いから帰省を受け入れてくれたものの、コロナ感染の心配は拭えなかっただろう。不安だっただろう。筆者の帰りたいという気持ちを尊重してくれた家族には感謝してもしきれない。

 

<帰省して思うこと>

帰省は、自分の帰る場所があることを再認識するためにあるのだと痛感した。しかし再び、会いたいという気持ちだけで行動できない状況に戻りつつある。各地でオミクロン株の市中感染が確認され、岸田首相は年末年始の帰省、旅行を慎重に検討するよう呼びかけた。それでもと帰郷する人もいれば、断念する人もいる。選択を迫られる中、やはりできることは感染対策の徹底だ。筆者も気を抜かない。

 

参考記事:

25日付朝日新聞朝刊(東京14版)35面「ついに東京に 悩む帰省」

20年8月31日朝日新聞デジタル「島根)コロナ対策店に独自ステッカー、出雲市

参考:

withコロナがんばる出雲のお店感染症対策取組店

Go To EATキャンペーンしまね