田中英壽理事長が突然逮捕。日本大学といえば、アメフト悪質タックル騒動をはじめ、組織ガバナンスの問題が度々指摘されてきました。医学部付属病院をめぐる背任事件では今年7月に側近の理事が逮捕され、本丸陥落に近づいている雰囲気もありました。とはいえ、日本一の学生数を誇る有名大学のトップが本当に逮捕されるなんて。理事長が脱税容疑で東京地検特捜部に逮捕された、という速報は衝撃的でした。
日大の組織構造や理事長の言動について、様々な側面から報じられていますが、最も注目を集めているのは、田中氏の経歴かもしれません。1969年に日大を卒業後、相撲部コーチや監督を歴任。学外では、日本五輪委員会(JOC)副会長や日本相撲連盟副会長を歴任し、アマチュア相撲界のトップにも君臨していた、というものです。スポーツしか出来ないような体育会系の人間が経営の全権を牛耳るのは、教育・研究機関である大学として如何なものか、という意見がネット上で散見されました。実際、運動部関係者が大学理事長になるのは異常なのでしょうか。
国立大学においては、国立大学法人法により、学長が大学法人を代表して業務を総理する、と定められています。すなわち、学長が理事長を兼任するものと規定されており、例外はありません。学長兼理事長のことを「総長」と呼ぶこともあり、旧七帝大の総長は、医学部か工学部の出身者が独占しています。
一方、公立大学や私立大学では、地方独立行政法人法と私立学校法に基づいて、学長と理事長の分離が認められています。企業経営者が学校経営にも携わる例が多く、京都先端科学大は日本電産の創業者が、亜細亜大学は鉄道会社東急の執行役員が理事長を務めています。近畿大、東海大、帝京大をはじめ、創設者の一族が経営権を握り続けている例も多々あります。珍しい人材を挙げるなら、東洋大では日銀出身のバンカーが、駒澤大では曹洞宗の僧侶が経営トップ。各大学の独自性が色濃く表れている印象です。このような事例を見ると、五輪アスリートを数多く輩出し、体育会運動部の活動が活発な日大において、田中氏が理事を司っていたのも決して不自然ではありません。
アカデミア界出身ではなくとも、教育・研究現場の声にしっかり耳を傾け、リーダーシップを発揮できる人物なら理事長を務めても構わないのです。むしろ、大学の普通の研究者より、社会経験豊かな実業家の方が優れた経営手腕を有していることが多いでしょう。巨大組織の教学と経営を一人が背負うのは、荷が重すぎるかもしれませんし。
結局、日大の事件諸々においては、田中氏の経歴や立場云々より氏個人の人格が問題だったのではないか、と筆者は考えます。運動部関係者が経営に携わることや理事長と学長が分離している組織構造が悪いのではない。大学運営を私物化し、私腹を肥やす人物とその取り巻きが原因なのです。
理事長を急遽引き継いだ加藤学長は、今後どのように立て直しを図るのでしょうか。世間の厳しい予想を覆すような組織改革に期待したいものです。
参考記事:
2日付 読売新聞朝刊(京都13版)1面「日大・田中理事長辞任」
2日付 朝日新聞朝刊(京都14版)26面「日大・田中理事長辞任」
2日付 日経新聞朝刊(京都12版)47面「日大・田中理事長が辞任」