太陽光パネル、自然との調和にも目を向けて

第26回国連気候変動枠組み条約国会議(COP26)が10月31日から続いています。地球規模の気候変動を前にして講ずべき対策を各国の代表が話し合う場です。イギリスのジョンソン首相が「気温上昇を1.5度以内に抑えるよう努力する」ことへの合意に意欲を見せ、中国と米国の政府代表団が、2030年までの温暖化対策強化のために作業部会を立ち上げることを盛り込んだ共同宣言を発表するなど動きは活発で、その成果が注目されています。

焦点は、平均気温の上昇を抑えるために各国が削減目標の引き上げで一致できるか、石炭火力発電の廃止に向けてどんな方向性を示せるかなど盛りだくさんです。「削減」、「廃止」といった言葉が並ぶことでもわかる通り、気候変動の原因になっていると考えられるものを極力無くしていくための激しい議論が続いているようです。

では、削減や廃止の後や代替案のことは、どれぐらい考えられているのでしょうか。

先日北海道釧路市に自然環境や街の変化の調査に行った際、太陽光発電のパネルの設置台数が多いことに気づき、再生可能エネルギーについて調べてみました。

釧路湿原の道路沿いには延々とパネルが連なっています。また、調査で足を延ばした帯広でも目につきました。気になったのは自然の中に急に現れるパネル群。そこで釧路市役所の市民環境部環境保全課と産業振興部産業推進室に問い合わせました。

会社が買った土地にパネルを並べている場合もあれば、売電での利益を求め、個人が持っている小規模な施設もあるといいます。所有者は市外といったケースもあるそうです。再生可能エネルギーの利用拡大を考えれば評価したいのですが、必ずしも自然環境と調和していないことに違和感を覚えました。

帯広市に設置されている太陽光パネル(6日筆者撮影)

なぜ釧路市や周辺地域に集中しているのでしょうか。「日照時間が長く。気温も低いので太陽光発電には向いている地域である」とのことです。釧路市が位置する道東地域は晴天の日が多く、全国の中でも日射量がかなり多いところです。さらに、北海道は梅雨もなく、平均気温も低め。装置は熱に比較的弱いことから、パネルを設置するには非常に向いている環境ともいえます。

市役所の担当者によれば、釧路の環境的特徴に加え、「東日本大震災の後からエネルギー問題に注目が集まり、重要性が高まった」「固定価格での買取制度が変わるため、変更前の駆け込みで建設が増加した」といった側面もあるそうです。太陽光発電などで生まれた電気を電力会社が一定の価格で買い取る制度が再生可能エネルギーの普及を後押しし、パネルが一気に増えたことがうかがえます。

11日付の日本経済新聞では、国連開発計画などが18か国を対象に実施した調査が紹介されています。気候変動対策に関して日本の子どもたちが重視していたのは「再生可能エネルギーの利用」(70%)や「森林や土地の保全」(69%)などでした。いずれも重要なテーマですが、視点を変えるとその両立が重い課題となります。

現在はキタサンショウウオの生息地など、湿原の中で保護が必要な区画での設置を規制しているといいますが、私有地の利用に対して明確な基準を設けているわけではないそうです。国としては環境アセスメントのなかで、大規模に限らず、小規模のものまで対応できるよう、少しずつ対象を広げていますが、太陽光パネルは建物ではありません。そのため、民有地の利用制限が難しいという事情があります。

雄大な自然と、そこに住む人々や生き物の暮らしが脅かされないように、気候変動への取り組みを急がなくてはなりません。しかし、肝心の対策が自然を傷つけるようでは本末転倒になりかねません。これまでのところ、太陽光パネルで景観が損なわれているといった苦情は市にはあまり届いていないとのことでしたが、担当者からは「今後は環境破壊につながる可能性も考えて対策を練り、監視したい」とのコメントもありました。太陽光パネルの設置は喫緊のエネルギー問題に対して効果的な策となりうると同時に、より長期的な気候変動の問題に対しても効果を発揮するでしょう。その一方で、その地域特有の環境保全問題に対し、負の影響を与える可能性があることも視野に入れたうえで、脱炭素社会を築いていくことが望まれます。

 

参考記事:

11日付 日本経済新聞朝刊(福岡12版)47面「「地球規模の緊急事態」7割」

11日付 日本経済新聞夕刊(福岡3版)3面「厳しいが達成可能」

11日付 朝日新聞夕刊(福岡4版)1面「温暖化 米中が作業部会設置へ」

参考資料:

NHK「COP26なぜ重要?私たちにどう関係する?会議の焦点は?

経済産業省資源エネルギー庁「固定価格買取制度とは