SNSで著名人のPR投稿を見たことはあるでしょうか。薦めたい商品の写真を投稿し、それがいかに良いものか力説するというのが一般的です。本日の日経新聞朝刊では、PR投稿を直接購買行動に繋げる、韓国の「インスタ通販」が紹介されていました。インフルエンサーが写真を投稿しただけで、数万、数十万のフォロワーがそこに載っている衣料品や雑貨を買い求めます。問屋とインフルエンサーの間に企業が入り、仕入れなどを請け負うことで、インフルエンサーは画像を撮るだけでセレクトショップが開ける仕組みです。中には月数百万円を稼ぐ人もいるのだとか。
インフルエンサーの一声が、フォロワーの購買行動に繋がっているのは日本も同じです。SNSが普及し、誰もが簡単に情報発信者になれる時代。自分と趣味や嗜好が合い、求めるものを発信してくれるインフルエンサーを見つけるのは容易なことです。筆者もメイクのメも知らなかった大学入学時、化粧品を紹介するYoutuberを参考にメイク道具を買いそろえました。
なぜインフルエンサーの発信は影響力を持つのか。彼らの投稿を見る私たちに、「イグゼンプラー(exemplar)効果」が働いているからです。イグゼンプラー効果とは、実在の人物から発せられた情報の方が信頼される傾向にあるというものです。たとえ相手をよく知らなくても、顔や名前が出ているだけで、その人の口から出ることは絶対だと感じてしまうのです。例えば学食の人気メニューに関する番組を被験者に見てもらい、視聴後人気メニューはどれだと思うか聞き取る調査があるとしましょう。下図のように、ランキングで少数派だったピザでも、実際にピザに投票した学生の声を聞くと、それが人気メニューだと錯覚してしまうのです。
SNSの場合、フォロワー数が可視化されていることも信頼度に関わっているように思います。フォロワー○万人、登録者○十万人など数字で評価されやすい世界だからこそ、大きければ大きいほど世論が評価しているという錯覚に陥ります。「これだけの人が支持しているから、大丈夫」という安心感に繋がるわけです。
しかし彼らが紹介したものが、本当にオススメしたい、効果があるものとは限りません。消費者庁は、9日インスタグラムに投稿された、豊胸効果をうたったサプリメントの表示に根拠がないとして、販売会社と通販会社に景品表示法違反で表示の停止を求める措置命令を出しました。両社は、女性にサンプルとしてサプリを渡したにも関わらず、商品モニターであることを隠しあたかも自分で買ったかのようにインスタグラムに投稿させました。一般消費者を装い商品をPRしてもらう、ステルスマーケティング(ステマ)と呼ばれる手法です。近年問題視されている商法ですが、インスタグラムの投稿が違反とされるのは初めてのこと。販売側の悪意ある手法が、インフルエンサーを介することで見えにくくなるのです。
私たち消費者がトラブルに巻き込まれないためには、やはり疑うことを忘れないことです。好きなインフルエンサーだからといって、言うことなすこと全てが正しい訳ではありません。誰かの意見に取り込まれないよう、自身の購買行動を冷静に見る必要があるのです。インスタ通販のような新たなビジネスモデルが日本で拡大する前に肝に銘じておくべきです。
参考記事:
10日付日本経済新聞朝刊(東京12版)10面「韓国で「インスタ通販」浸透」
同日付読売新聞朝刊(東京13版)31面「消費者庁「ステマ」景表法違反初認定」