指名漏れの筆者です(笑)。
残念ながら今年も誰一人指名がなく、意気消沈のあらたにす編集部です(笑)。という冗談はさておき、今回のテーマはプロ野球のドラフト会議です。ですが、各球団の指名結果や注目選手についてあれこれ居酒屋談義を展開するつもりはありません。一人のプロ野球ファンとしてドラフトを楽しみにしている一方、この制度に疑問を感じずにいられないのです。日本球界の均衡か、選手の自己決定か、今日はドラフト制度の問題点を一緒に考えていきたいと思います。
22日、プロ野球ドラフト会議が開催され、今回注目の最速152キロの高校生NO.1右腕、高橋純也投手(県岐阜商・岐阜)は中日、日本ハム、ソフトバンクの3球団競合の末、ソフトバンクが交渉権を獲得しました。また、圧倒的な俊足と好守で甲子園を沸かせたオコエ瑠偉外野手(関東第一高・東京)は楽天が1位指名、夏の甲子園優勝投手の小笠原慎之介投手(東海大相模高・神奈川)は中日、日本ハムの競合の末、中日からの指名を得ました。高橋投手はインタビューで「夢だったプロ野球のスタートラインに立つことができてうれしい。」と語り、お茶の間のファンに素朴な笑顔で意気込みを聞かせてくれました。どの選手の言葉からも「早く一軍へ」という言葉が目立ち、指名がゴールではなく、スタートなんだというスター候補生たちの熱い決意も感じることが出来ました。
冒頭で述べた通り、毎年胸を熱くするドラマがあり、筆者もドラフトを心待ちにしていることは否定しません。ですが同時に、この制度に疑問を感じずにいられないのも事実です。職業選択の自由という観点から見ると、問題ではないでしょうか。そもそも選手は指名された球団としか交渉ができません。「提示された条件に納得がいかないから、他の球団に」ということは不可能です。これでは条件の比較が出来ず、「条件を飲むか、その年のプロ入りを諦めるか」の二択しかないということになります。明らかに球団に有利すぎるような印象を持たざるを得ません。また、条件だけでなく、子供の頃からの憧れやチームの育成実績、地元に残りたいなど、一般の就職であれば、募集要項の確認や交渉で叶う可能性の高い希望も通りません。全ては球団のフロント次第、競合になれば運任せになってしまいます。ここまでに選手が自分で考えて選択を行う場面は殆ど出てきません。
選択する場面としてはFA権の行使がありますが、取得するには一軍の出場選手登録期間が8シーズン必要です。そして、ドラフト指名をされたにも関わらず、メジャーリーグへの挑戦をする場合、通称田澤ルールという規定により、帰国後一定期間、日本のプロ野球でプレーすることができなくなります。 FA権を取得する前にポスティングシステムを利用して移籍することもできますが、球団に認めてもらう必要があります。
つまり、自己決定の場面が殆どなく、やっと自己の意思で行動できるようになったとしても、その行動を妨げる障害が数多く存在しているということです。会社員などの一般的な仕事と内容も仕組みも大きく異なるため、一概に比較できませんが、個人の選択を著しく制限したこのような制度は球団ばかりが得をし、選手が不利なままではないでしょうか。メジャーリーグにもドラフト制度はありますが、有力な選手は交渉人を雇い、条件に満足しないから入団しないということも可能です。他の競技と掛け持ちしている選手も少なくなく、そちらの方が条件がいいということになれば、辞退することもできます。サッカーでは期間の制限などはありますが、日本だけでなく、欧州でも入団や移籍の交渉は原則自由に行われています。
「ドラフトをやめたら、また巨人が金の力で云々」というセリフを聞き飽きた方も少なくないでしょう。これは戦力均衡の観点からの指摘ですが、巨人やソフトバンクのように資金力のある球団でも、予算は無尽蔵ではありませんし、その年の補強したいポイントも各球団それぞれに異なります。ですから、今年の注目選手を全て獲得するということは考えにくいでしょう。また、選手の評価も各球団によって大きく異なることもあります。この点から考えても、一つの球団が有力選手を全て獲得してしまう可能性が限りなく低いと言えるのではないでしょうか。ドラフトがなくても、各チームが必要な戦力を確保することは十分に可能です。
このような戦後の集団就職のようなシステムで、選手を囲い込み続け、「金の卵」本人の意思がまるで尊重されないというのは幾ら何でも時代錯誤甚だしいとしか感じられません。もしかすると、プロ野球ファンが減少しているのは、制度や体質が古臭く、現代人の価値観に合わなくなってことが影響しているようにも感じています。男性のファン中心の市場が頭打ちになり、プロ野球の人気は下降気味です。カープ女子など新たなファンの獲得に乗り出し、各球団は市場開拓を目指しています。成功した球団も勿論ありますが、球界全体を見渡すと、まだまだ改善とは程遠いでしょう。改善すべきは市場戦略だけでなく、時代錯誤的な風土です。指名制度の改革から、もっと多くの人に愛されるプロ野球になることを期待しています。
多くのファンに「指名」してもらえるスポーツになるために。
参考記事:各紙ドラフト会議関連面