様々な人に対応して今の薬の形 薬局の価値

新型コロナウイルス治療の新たな一手として、アメリカの製薬会社が開発を進めるカプセル状の飲み薬「モルヌピラビル」が注目されています。11日に米食品医薬品局(FDA)に緊急使用許可を申請したと発表されました。

新型コロナウイルスに感染し、軽症から中程度の症状で、重症化のリスクがある大人の患者向けの薬です。飲み薬は点滴と比べ迅速に投与できるという特徴を持ち、薬を飲むだけになれば医療従事者の負担は大きく減ると予想されています。

「飲み薬」と聞くと辛い思い出の多い筆者にとって、この話題は期待が高まると同時に少し不安を覚えるものでした。粉薬は水を飲んだ後に口の中に広がる苦みが嫌いで、薬を飲む時間は苦痛でした。薬を口に入れる際にむせたことは数多くありました。特ににおいのきつい粉薬の場合は、今でも飲むまでに時間がかかり、顔をゆがめています。錠剤は粉薬と異なり、苦みが広がらないのは良いのですが、幼少期には固形物をそのまま飲み込むことには抵抗があり、何度も戻した記憶があります。

「飲み薬」が気になって、兵庫県川西市にあるダイワドラッグの兼定政司(けんじょう・まさし)さんにお話を伺いました。

「昔は薬と言えばひや・きおーがん」で、「コマーシャルが毎日のように流れていた」と話してくれました。江戸時代初頭の1622年創業という樋屋製薬の奇応丸という赤ちゃんから小児むけの薬です。粒状で直径は1.5ミリと非常に小さく、自然から採取した生薬原料を配合しているため、生後2~3週間の新生児から使える利点があります。赤ちゃんの「夜泣き」、ちょっとした刺激に過敏に反応し感情を表す「かんのむし」という症状の緩和に長らく親しまれてきました。

右の奇応丸は昔から変わらず残り続けている。左の救心も店頭でよく見かける。

ただ、「昔は薬局の薬を渡るだけである程度はなんとかなったけど、今はだいぶ状況が変わった」と兼定さんは言います。顆粒など粉状のものが主流だった頃とは異なり現在は、錠剤、カプセル剤、液剤、粉薬、ドライシロップ、シロップ剤などさまざまで、薬によって対象年齢も異なります。ドラッグストアでよく目にするルルやパブロンも以前は6歳から服用できたものの、現在は12歳以上に年齢制限が引き上げられています。

これらの風邪薬には咳止め成分としてコデイン類(コデインリン酸塩水和物またはジヒドロコデインリン酸塩)が含まれていることが多いのですが、副作用として重篤な呼吸抑制があらわれる恐れがあります。安全性を考慮した結果、年齢制限が変わったそうです。幼児向けの市販の飲み薬も減ったと言います。こうした変化もあり、多くの薬局では「緊急性が高いものや少しでも服用に不安のある場合は、医療機関での診察や処方を進めるようになった」と話してくれました。

薬が飲みにくいことに関しては、「年齢にあった薬の形があるし、飲むのを補助するものも多くある」と教えてくれました。兼定さんが子どものころは「アイスクリームに混ぜて無理やりでも飲んでいた」そうですが、現在は薬の成分が壊れない補助剤が販売されています。代表的なのがオブラートですが、かさばるため、飲みづらいという難点があります。そこで高齢者用に使われていた服薬ゼリーを改良し、子ども用が生まれたそうです。

右が昔からある服薬ゼリーで無味無臭、左が子供用に開発された服薬ゼリー。

よく薬を飲む高齢者の方にとってはゼリーが高くつくので、オブラートが主流。

販売の際に心掛けていることもうかがいました。「子どもにはできるだけ錠剤は渡さない」、「飲む力が必要なカプセル剤は喉に引っ付きやすいため注意をする」などです。その人にあった薬を提供するためコミュニケーションが必要だと話す兼定さんは「街の薬局だからこそ、大きなドラッグストアで減少したコミュニケーションをもとにした薬の提供ができる」と今後の薬局の役割について語ってくれました。

同じ薬でも左は微粒、右は錠剤と形が違う。

薬の形や薬局の在り方は昔と比べ大きく変化しましたが、昔から変わらない薬もあります。それでも様々な人が服用しやすい形に改良を重ねています。患者に合った薬を丁寧に選ぶことのできる街の薬局には、処方薬のみを受け取る病院、スーパーと変わらない大手ドラッグストアにはない魅力があります。

 

参考記事:

12日付 日本経済新聞 2面(総合1)「米でコロナ飲み薬 申請」

参考資料:

11日NHK「飲み薬「モルヌピラビル」米で緊急使用の申請 許可なら世界初」

12日CNN「米メルク、コロナ飲み薬「モルヌピラビル」の緊急使用許可を申請」

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