制度的課題が多い太陽光発電事業

部屋の掃除をしていたら、小学校6年生の時に購入した太陽光パネルが出てきた。最近は全然使っていないので、うっすらほこりをかぶっている。パネルの表面の汚れは発電効率に直結する。傷がつかないように気を付けながら丁寧に拭き取った。一般的にソーラーパネルの寿命は20年から30年と言われており、購入から10年ほどしか経っていない筆者のソーラーパネルは問題なく発電を始めた。

縦7cm、横5cmの小さなソーラーパネル。筆者が買った当時は一枚850円ほどだった。エコなものがとにかく好きだった。とは言っても地球温暖化対策になっているとか、そういう社会性の高い意識は全く無し。「何もしなかったら無駄になってしまうものをうまく使えるのは楽しい」という感覚で、夢中になって自宅の庭で実験していた。

筆者が小学生の時に購入したソーラーパネル(12日、筆者撮影)

ソーラーパネルを使って遊ぶ中で、いろいろ気づくことがあった。その中で一つ、結構重要だと思ったのがパネルの角度である。直射日光が射していたとしても、パネルが日光を真正面から受けとめているかどうかで発電量が大きく変わった。

太陽光発電は太陽から届く放射エネルギーを電気に変える。このエネルギーの大きさを日射量と言い、ソーラーパネルを設置する際、まずは最大化することを考える。国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は日射量のデータを提供しており、それを踏まえれば、年間の発電量が最大になるパネルの最適傾斜角度が分かる。場所によって異なり、例えば、札幌市は34.8度、東京都新宿区は32.8度、鹿児島市は27.7度、那覇市は18.1度である。

しかし、必ずしもその角度通りにパネルが設置できるわけではない。影ができるからだ。例えば、パネルを最適角度の33度で設置した場合、太陽の高さが一年の中で最も低い冬至の日の正午でも、他のパネルに影がかからないようにするには、パネルとパネルの間を少なくとも1.7メートルは離しておく必要がある。ただ、そうすると土地の利用効率が悪くなる。そこで、一つのパネル当たりの発電効率は落ちるが、最適な角度よりも緩くしてパネル同士の距離を狭める。もしくは、最適角度を維持したままパネル間の距離を詰め、冬至の正午でもパネルに影がかかることには目をつむるという方法がとられる。以上のように、発電効率と土地の合理的な活用を両立することはなかなか難しい。

▲太陽光発電の発電効率と土地の有効活用のバランスは難しい(筆者作成)

その点で強いのが、傾斜地である。土地がもともと傾いているため、パネル間の距離を短くしてもパネルに影がかかりにくい。限られた土地により多くのパネルを設置できるのだ。

しかし、一般的に傾斜地よりも平地の方がパネルの設置に適していると言われている。傾斜地に作る場合、土地を滑らかな斜面にするための造成費用が莫大なためだ。ある太陽光発電事業者は、「斜面でソーラーを始めたら、初期費用回収のために簡単には引けない」と話す。近隣の住民からの災害リスクを指摘した苦情に対する言葉だと私は受け取った。

それでも、傾斜地の設置が少なくないのは、平地の不足が一つ理由にある。日本の平地面積当たりの太陽光設備容量は先進国の中では断トツのトップである。今年3月までは耕作されていない農地で発電する場合、パネルの下で農作物をつくり一定の収穫をすることが要件にあり、これも平地での設置を難しくしていた。この規制の緩和によって、平地不足の解消が一定程度見込めるが、ある造成会社の社員は「基本的にこれまで太陽光発電は経産省が中心で進めており、農水省が行ったこの規制緩和は発電事業者に十分に周知されていない。『知らなかった』という声を今でもよく聞く」と話した。

 

固定価格買い取り制度(FIT)によってかなり拡大した日本の太陽光発電事業。しかし、最近は土砂災害のリスクを指摘する声や買取価格の下落などの逆風が吹いている。もちろん、災害の危険がある場所への設置を規制することは不可欠である。ただ、「太陽光発電=悪」という短絡的な考えに陥らないよう気を付けなければならない。危険な場所に設置されていたり、近隣住民の声が反映されていなかったりするのは、制度的な不備が原因だ。設置禁止区域に関する対処が自治体任せにされており、また、FIT法における設備認定の手続きの際、立地問題や近隣住民の声があまり考慮されてこなかった。

これらの問題は、太陽の放射エネルギーを電気にするという科学的プロセスに関することではない。そこが、原子力発電と大きく異なる点だ。国の制度改革で乗り越えられる部分はまだまだ多いように思う。

 

参考記事:

日経電子版 2021年9月14日「再生エネ設備に広がる規制 防災や景観で条例、5年で5倍」

日経電子版 2021年3月23日「荒廃農地の太陽光発電、収穫量確保の基準を撤廃 農水省

朝日新聞デジタル 2021年6月4日「太陽光発電所と住民のトラブル 専門家の見方は」

 

参考資料:

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「日射に関するデータベース」

NHK NEWS WEB 「太陽光発電施設の立地を分析 1100か所余に土砂災害リスク」