ロンドン名物といえば、世界最古を誇る地下鉄と真っ赤な2階建てバス。多くの外国人で賑わう国際都市だけに、その移動手段である公共交通機関も進んでいるイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、この街の地下鉄はあまり先進的とはいえません。長い歴史を持つ一方で、施設の老朽化が問題となっています。しかも新型コロナウイルスの影響で客足が戻らず、ロンドン交通局(TFL)は政府からの財政支援を繰り返し受けているほどです。
■ロンドンの地下鉄は古い?
コロナ禍が収束した後に、再び活況を呈するには、今のうちにどのような改革を行えばよいのでしょうか。筆者が実際に利用し、日本の地下鉄と比べたところ、三つの課題点を見つけました。
1.電波が使えない
行き先を調べる際に欠かせないのがスマートフォン。「Citymapper」という電車案内の便利なアプリがあるにもかかわらず、地下鉄に入った瞬間にネットワークが遮断されるため一切調べることができないのです。右も左もわからない旅行者にとって、車内で携帯が使えないのは非常に困ります。日本では車内のどこを見渡しても大抵の人が携帯を見て何かしら作業をしていますが、英国ではそれができません。目的地までの長い道のりをただぼうっとして過ごすのは、せかせかした環境で育った日本人からすると、時間がもったいない気がしてしまいます。
2.車内が汚い
駅は暗く空気も薄汚れており、構内には50万匹のネズミが住み着いているといわれているほど。座ろうとして椅子を見ると、汚れがはっきりと分かります。
(写真)地下鉄の外観と内装のイメージ
3.冷房がない
一部の車両を除き、ロンドンの地下鉄には冷房がありません。もともと英国は気温が日本ほど高くないので、冷房を設置していない家も珍しくはありません。ただ、そうはいっても時折30度近くまで気温が上がることもあります。空調のない車内は、むっとした蒸し風呂のようで熱中症になるリスクもあります。
■前途多難なリニューアル
設備が古いと感じるのもそのはず、ロンドンの地下鉄「チューブ」の多くはビクトリア朝時代に建設されました。地下鉄を利用した移動の需要の高まりは、いま運営会社のキャパシティを上回るまでになりました。設備の更新や拡充には莫大な費用がかかります。また「大手術」をするとなると利用者にも長期間、不便を強いて混乱を招きかねないため、なかなか踏み切れていないのが現状です。
もちろん、往時の雰囲気がそのまま残っているようで、趣があって良いなとも思います。それでも利便性がいいに越したことはありません。伝統的な景観は残しつつ、少しずつ改良を加えれば、より人々がすごしやすい車内環境へと近づくと思います。それが英国流のはずですが。
世界中の人が一度は訪れたい観光名所が盛り沢山のロンドン。せっかくなら目的地までの旅路も快適で楽しい思い出にしたいものです。
(写真)イギリス交通博物館の外観 ※9月1日筆者撮影
参考記事:
8月31日付 日経電子版「英地下鉄・バス、深まる経営難」
参考文献:
イギリス交通博物館