パラリンピック開幕の日 目に見えない障がいを、考えよう

2021年8月24日、東京パラリンピックの開幕です。ブルーインパルスが東京上空を舞い、画面上の検索エンジンで「パラリンピック」と打ち込むとピクトグラムと紙吹雪が舞い散ります。無観客試合など課題はありますが、ひとまずは開催できることを喜びたいと思います。22競技、539種目が実施される東京パラリンピック。皆さんは、何を楽しみにしていますか。今大会から追加された、テコンドー、バドミントンでしょうか。体験会も多く実施され、注目を浴びている車椅子バスケでしょうか。筆者は、知的障害クラスの陸上、競泳、卓球を楽しみにしています。

知的障がい者の方々がパラリンピックに初めて参加したのは1996年のアトランタ大会。意外と日が浅いです。この時期は国際的にも知的障害スポーツの機運が高まっていたようで、その4年前には知的障がい者のための新しい国際大会が開かれていました。パラリンピックでの知的障害クラスの実施競技拡大は、2000年のシドニー大会で実現します。従来の種目に加え、バスケットボールが実施されました。

ですが、この大会で大事件が起きます。男子バスケで優勝したスペインの登録選手12人のうち、10人が障がいのないアスリートだったのです。パラリンピックの理念に反した不正行為です。「重大な違反を受け、知的障害クラスの競技は全て実施しない」と国際オリンピック委員会が発表し、知的障がい者は12年間にわたって競技から締め出されてしまいました。その後、知的障害者スポーツ連盟(INSA)によって選手資格が明確に定められるなどし、国際パラリンピック委員会が求める認定基準が確立された陸上、水泳、卓球が12年のロンドン大会で復活しました。

このような歴史をたどって、感じるのは『目に見えない』ということの難しさです。当時は障害を認定する基準が統一されていなかったということもあり、今はこのようなことが起きづらい状態に改善されていると思います。ですが、目に見えない特性を持つ人々が、悪意ある人に利用されるケースは少なくありません。

トランスジェンダーの方の女子大入学をめぐる問題は似たケースかもしれません。争点として多いのは、トランスジェンダーのふりをした男性による女性に対する性的被害への懸念です。被害を起こさないためという理由で締め出され、我慢を強いられるのは本心から女子大入学の支援を必要とし、女子トイレ利用を望むトランスジェンダーの人々です。シドニー大会の事件同様、悪意ある者のせいで支援を望む人のための場所が狭められているのです。

それだけではありません。目に見えないというだけで、周囲から得られる理解や支援が減っている現実もあります。人は形のあるものには敏感に反応をし、目に見えないものは見過ごしてしまいがちです。障がいを抱える人に対する支援でも格差が生じることは少なくありません。私の祖母は、耳が聞こえづらく補聴器をつけて生活しています。髪がかかると補聴器は相手から見えません。そのため、買い物で店員の声が聞きとりにくかった時に、相手から当惑あるいは不快な態度を示されることもしばしばです。質問を無視する人に見えるのでしょう。このような周囲との些細なずれは見えない、見えづらい障がいを持つ人の辛い部分だと思います。

パラリンピックを機にそうした障がいについて考えました。歴史をたどり、現状を振り返る中で思ったことは、私たちの考え方、意識で見えづらい障がいを持つ人々が生活しやすくなるということです。アルバイト先でよく座敷の席に椅子は置けますか、と聞かれます。正座をすると足が痛い高齢者にとって椅子だと楽だから。こんな風に、相手の事情に耳を傾け、ちょっとした配慮をしてあげられる社会が広がればいいと思います。

いま、この記事の投稿作業を、パラリンピックの開幕式を見ながら行っています。「心のバリアフリー」というキーワードがテレビからはっきりと聞こえてきました。様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことを指しています。この言葉も胸に、大会期間を他人事でなく自分ごととして、社会を考えるきっかけにできれば。そんな思いでこの文を終えたいと思います。

8月24日筆者がスクリーンショットで撮影 パラリンピックと検索するとピクトグラムと紙吹雪が舞う仕掛け

 

時事通信社から引用パラリンピックが開幕し、花火が打ち上がった

 

【参考記事】

8月24日付 読売新聞朝刊 東京13版 1面 東京パラ今日開幕 関連記事 21・33面

8月24日付 朝日新聞朝刊 東京 14版 19・21面 パラリンピック関連記事

8月24日付 日経新聞朝刊 東京 13版 パ1面 ラリンピック今日開幕 関連記事 35面