オリンピックが閉幕して3日が経ちました。私を含め感動と興奮に包まれた人々、閉会式当日まで五輪反対をデモで訴えた人々。それぞれの思いが色濃く出たのは新聞社も同様でした。一面記事の中でも右上に来るトップ記事が最も伝えたい内容です。同じ五輪スポンサーでありながら、読売新聞はトップに何度もアスリートを称える記事を据えていましたが、朝日新聞はコロナや政治に関する記事のほうが断然多かった印象です。マスメディアの姿勢も「十人十色」だということが分かります。
「この後、東京オリンピックが始まります。みなさんどんな思いでしょうか」「感染拡大が不安でしょうか。大会前のトラブルに怒りを感じているでしょうか」「せっかくやるなら応援しましょうというつもりはありません。ただ、この大会に純粋な思いを、努力を注ぎ込んだ人がいます。その人たちへのリスペクトだけは忘れたくありません」
開会式直前、日本テレビで流れた藤井貴彦アナウンサーの言葉は、五輪への多様な思いを端的に表していたように思えました。Twitterでの拡散力は凄まじく、藤井アナの言葉に共感する国民が大勢いたことが分かります。同時に、あらゆる立場の人が五輪関係者に対してリスペクトの意があったとも読み取れます。
そこで今回は、五輪「賛成派」「反対派」どちらの立場であっても鑑賞してほしい「五輪のデザイン」に焦点を当てていきます。藤井アナの「その人たちへのリスペクト」という言葉の中にはデザイナーも含まれていることでしょう。
現在、DNP (大日本印刷株式会社)が運営する「ギンザ・グラフィックギャラリー」で過去の五輪をデザインで振り返る展覧会が開催中です。本日筆者も訪れてみました。
開会式では一つひとつの競技を表す図案「ピクトグラム」が話題になりました。全50個のピクトグラムをテンポよく再現する演出は、思わずクスっとさせる傑作でした。恥ずかしながらスポーツピクトグラム誕生国が日本であったことを筆者は開会式で初めて知りました。日本人として誇らしい事柄がひとつ増えた瞬間でした。展覧会では1964年の東京大会以降、様々な国のピクトグラムを見ることができます。それらは言語の壁を乗り越えるためにデザイナーたちが試行錯誤を繰り返して生み出した結晶です。
1968年のメキシコ大会では、アスリートのシルエットではなく、競技用具などが表現されています。競技ごとにつけられた独自の色が東京大会との大きな違いです。-①
1972年のミュンヘン大会では、水平・垂直・斜め方向の3つの角度に基づいた構成で、ほとんどの競技で全身が描かれています。デザインには2年も費やされたといいます。-②
2004年のアテネ大会では、陶器の破片を連想させる不規則な形の中に35のピクトグラムがあしらわれました。古代ギリシャで栄えたキクラデス文明の特徴が取り入れられています。-③
このように文化や歴史、デザイナーの意図が顕著に表れていることが分かります。もちろんピクトグラムだけではありません。公式キャラクター、エンブレム、大会ポスターも開催国と時代の象徴が詰まった産物です。
公式キャラクターは1972年のミュンヘン大会で初めて誕生しました。モチーフはバイエルン州で人気のあるダックスフントで、抵抗力・不屈さ・敏捷性を表しています。2020東京大会は公式エンブレムの市松模様をあしらった五輪マスコットでお馴染みです。「未来」と「永遠(とわ)」を結び付けたミライトワ。桜の「ソメイヨシノ」と、英語の「so mighty(非常に力強い)」を掛け合わせたソメイティ。改めて名前の由来を見ると、希望に満ち溢れた力強い印象を抱きます。
「大変楽しめました」。一通り鑑賞をし終わったおばあさんが、展覧会を後にする際に係員の方に伝えた感想です。私も存分に楽しんだ一人。五輪は多くの力なくして成り立たないこと、開催都市が自国の発展を見据えて世界に発信する場であることを再確認しました。心が豊かになったのも事実です。会場には老若男女あらゆる世代の方がいました。彼ら彼女らが五輪に抱く思いがどんなものかは分かりません。それでもアートやデザインを通して、何か感じ取ったものがあることは確かです。
パラリンピックは24日から始まります。メダルもビクトリーブーケもオリンピックとはまた違ったデザインです。今回の記事が大会の新たな楽しみを見出すきっかけになれば幸いです。
私はオリンピックと同様、離れたところからパラアスリートたちを応援します。
参考記事:
7月24日付 読売新聞朝刊 埼玉 1面「東京五輪 開幕」
7月24日付 朝日新聞朝刊 埼玉 1面「東京五輪 コロナ下の開幕」
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