五輪期間中に活動するボランティアの数は5万4千人。遡ること2年半前、五輪開催のムードも高まってきた2018年12月21日にボランティアの募集が締め切られ、予定の8万人を大きく超える20万人の応募がありました。
その時、高校3年生だった筆者。受験勉強は上の空でボランティアのことばかり考えていました。自分の進路もわからない中で「大会期間中は全日程に参加できる」と備考欄に書いたことを覚えています。いま思えば、あの時期しっかり勉強をしていればよかったのに。
そして、いよいよ五輪が開幕しました。コロナによる延期や森喜朗会長による女性蔑視発言。今春までに、約1万人がボランティアを辞退したと朝日新聞が報じていました。筆者も1年延期された結果、インターンシップ(就労体験)と時期が重なるなどして辞退するか迷ったものの、せっかくの機会なので参加することにしました。
数回のオリエンテーションとeラーニングを経て、7月の半ばにユニフォームを受け取りました。場所は六本木のTOKYO-UACビル、ホテルオークラ東京の別館だったところです。ビルの中では本人確認をしたうえで、競技会場や大会施設に入るときに使う「ACRカード」を発行してもらいます。その後、事前に採寸したユニフォームを受け取ります。
筆者の前に並んでいた20代くらいの男女は、渡されたトップスやジャケットを手に取ると「すごくない?」と、お互いに見せあっていました。いざ受け取ってみると、いよいよ始まる気がして気分が高まってきました。青いトップスは3着、灰色のパンツは2着配られ、加えて靴や帽子も。こんなにもらっていいのかと思うほどです。TOKYO2020と印刷された大きな袋にすべてを詰め込み、ビルを後にしました。
ユニフォームの受け取りには、オリンピック・パラリンピックのボランティアの他に、会場で救護活動をする「メディカルスタッフ」と呼ばれる人も来ていました。ボランティアは個人が応募しているのに対して、メディカルスタッフは所属する病院や医療施設に直接依頼が来るようです。話を聞くと待遇も様々で、都内で働く看護師(36)の女性は、「病院に20人程度のメディカルスタッフの募集が来た」「通常の勤務とみなされ、給料に加えて交通費が出る」とのこと。一方、鍼灸師(31)の男性は、関りがあったスポーツトレーナーの推薦で参加することになり、「報酬は出ないだろうけど、選手と関わる仕事をしているので参加した」と話してくれました。
担当する場所はそれぞれ違いますが、同じ業務内容だとしたら待遇が異なるのは気になるところです。それでも2人とも「せっかくの機会だから参加することにした」と話しており、東京開催の五輪を楽しみにしている様子が伝わってきました。
連日、五輪の競技中継が放送されています。選手の入退場時に映る青いユニフォーム姿は、ボランティアなど大会を支える関係者です。本日の朝日新聞朝刊には、五輪会場のトラブル続きで困惑するボランティアや、ユニフォーム姿で会場まで移動することを心配する参加者の声が紹介されていました。
メダル授与の瞬間に立ち会った時は心が震え、「ボランティアをやってよかった」と思った。それでも「ユニホームを着て会場に向かうのは不安」とこぼす。
これには同情させられました。朝7時の通勤電車、車内の液晶モニターにはコロナの感染拡大が止まらない状況を伝える映像ニュースが映し出され、政府の対応を指摘する記事を読む通勤客もいます。五輪のロゴが入ったポーチを凝視されたこともありました。
それでも、ボランティア活動は代えがたい楽しさがあります。入場規制がされている会場に入り、大会運営に参加する。たとえ会場外の仕事でも、活動中にテレビ越しで見た競技は、家のテレビで見るのと迫力が全然違います。
ボランティアの帰り道、選手村の近くで五輪反対を掲げるプラカードを持った人がいました。開催期間の半分が過ぎた今でも、中止を求める人がいるのも現状です。明日も、多くの競技が開催されます。試合が始まるまでの待ち時間に、様々な想いで活動に参加している「青い服の人」をテレビの前で探してみてはいかがでしょうか。
参考記事:
1日付 朝日新聞朝刊(埼玉14版)29面「五輪ボランティア 曇り顔」
6月2日 朝日新聞デジタル「五輪ボランティア、1万人が辞退」
参考資料:
・東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会