五輪が始まってから毎日のように一面を飾るのは、選手のはじけるような笑顔とメダルの色。26日の朝刊で目にした柔道の阿部兄弟の笑顔、29日に掲載された水泳の大橋悠依選手の2冠達成での笑顔は見ている筆者も嬉しくなりました。一方で28日から一面を五輪と分け合うようになったのは新型コロナウイルスの感染状況。筆者の住む福岡県は8月1日から飲食店への営業時間短縮要請を行う方針を固めました。開催と感染状況を天秤にかけたうえで始まった五輪だけに、両者の先行きは気になるところです。
大学で公衆衛生について少し学んでいることもあり、日本の医療状況や今後の感染拡大を懸念し、五輪開催には批判的でした。菅義偉首相により「人類がコロナに打ち勝ったあかし」としての五輪開催が表明された際は、「このまま開催まで突っ走るのだろうな」という不安と失望が混ざり合った感情を持ったものです。
確かに五輪開催が感染拡大のすべての要因であるとは言えません。最近は暑くなってきたためか、マスクを外す姿が多く見られます。筆者のアルバイト先である湯浴施設でも、入館の際に着けていない方が増えたように感じます。しかし、批判も多くあった中での開催であるため、五輪が感染拡大の原因のように感じる人も少なくはないでしょう。
ここまで五輪開催を批判してきた筆者ですが、開催後は中継を食い入るように見ています。しかも仕方なく、話題についていけなくなるから見ているのではなく、自ら率先して。やはりスポーツの魅力にはどうしても勝てません。五輪開催に消極的な意見を持っていた友人も中継を見て、毎日のように戦況を報告してくれます。「始まってしまったのだから、楽しむしかない」という友人の言葉はもっともで、それほど五輪の影響力が大きいともいえるでしょう。
友人の言葉にならって、筆者なりの五輪の楽しみ方を紹介します。観戦自体の楽しさはもちろんのこと、今回注目したいのは「実況」と「解説」の面白さです。実況は「物事の、実際に行われている状況」を意味し、野球で言えば「ストライク!バッター見逃し三振!」などの状況説明がそれにあたります。一方で解説は「よくわかるように物事を分析して説明すること」。ピッチャーの特徴や、投げた球種などを説明します。
印象的だったのがスケートボートの瀬尻稜さん。今大会の新競技です。筆者はスケートボード(ストリート)の競技自体を知らず、興味本位で中継を見ていました。プロスケートボーダーの瀬尻さんは「ゴン攻め」「ヤベー」「スゲー」「ビッタビタ」など飾らない素直な言葉で解説し、競技の魅力を発信。さらに実況の倉田大誠アナウンサーは、聞きなれない「ゴン攻め」に戸惑いながらも意味を問うという、くすっと笑ってしまう掛け合いも見られました。
瀬尻さんの解説は非常に斬新です。普段着の言葉でスケートボードの魅力を存分に感じさせたこと、五輪での新競技として世間に印象付けたこと、そして実況の本来の目的である「分析して説明する」ことにも抜かりなかったこと。この3点で今までにない解説に出会ったと感じます。
筆者はスケートボードの技を知らず、どれほどすごいことをしているのか分かりませんでしたが、瀬尻さんの解説により、「プロがここまで純粋に褒めるのだからすごいのだろうな」「楽しそうな競技だな」と感じました。ただ感想を述べるだけでなく、技の解説がうまかった点も相まって、SNS上では「わかりやすい」「愛着を感じる」などと好印象なコメントが多くみられました。中継の終盤では瀬尻さん自身のスケートボードへの思いも語られており、スポーツそのものの魅力に実況・解説というスパイスが加わることで深くスポーツを知り、味わうことができました。
新型コロナウイルスの影響で無観客での五輪実施、そして中継を見て応援するしかない我々国民。テレビやネットでの中継だからこそ、実況・解説を通じてスポーツの魅力を知ることができる機会ではないでしょうか。近くの商店街の人たちに、五輪をどれぐらい見ているか聞いてみると、「競技が並行して行われるから、いくつものディスプレイで表示して出来る限り全部見ているよ」と楽しそうに話してくれました。瀬尻さんの解説で印象的だった「スゲー」のくだりを真似して「スケートボードの解説は面白かったね」と話してくれた人もいました。
「始まってしまったのだから、楽しむしかない」
コロナ禍ならでの五輪の楽しみ方を探してみてはいかがでしょうか。
参考記事:
26日付 日本経済新聞朝刊9面「五輪と政治の協奏曲」
26日付 読売新聞朝刊1面(福岡13版)「阿部兄弟「金」」
29日付 朝日新聞朝刊1面(福岡14版)「大橋2冠 遅咲きの25歳」
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参考資料:
西日本新聞「外出自粛、時短再び「夏休みは近場で我慢」 福岡県要請に落胆の声」
NHK「福岡 県独自の「コロナ警報」発出を決定 8月1日から時短要請」