「もう、母国のニュースや新聞を見るのがつらいんです……」。先日、埼玉県に住むクルド難民に話を聞きました。毎日のように、母国でたくさんの人が亡くなる現状を受け入れるのは酷だ。一人のクルド人男性が筆者に語ってくれました。日本には、現在2000人ほどのクルド難民がいると言われています。彼らの母国では、「イスラム国」(IS)による空爆やテロ事件が後を絶ちません。
トルコ政府は29日、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する米軍主導の有志連合に参加すると表明しました。トルコ外務省は同日の声明で「決意を持って断続する」と明言。有志連合参加により、トルコ国内ではIS協力者による報復テロの恐れが高まるとされています。にもかかわらず、なぜ有志連合の参加表明を示したのでしょうか。その背景には国境を接するシリア北部で、ISに対して優位に立ちつつあるクルド人勢力への警戒感があります。真の目的はクルド人勢力を牽制することのようだと、朝日新聞では報じられています。
中東現代史に詳しい明治大学の佐原教授は、「最大の懸念はトルコと米国の軋轢だ」と語っています。「イスラム国」(IS)と戦うシリアのクルド人勢力と米軍は協力関係にありますが、トルコはクルド人勢力拡大を警戒しています。両者の溝は、ISに対する有志連合の空爆にトルコが加わったことで埋まったようにも見えますが、推移を注視しなければならないようです。
6月に行われた総選挙で、エルドアン大統領率いる与党・公正発展党(AKP)が過半数割れしたことは記憶に新しいです。その大きな理由として、少数派クルド人の票が野党に流れたことが挙げられると、以前「あらたにす」でもお伝えしました。その後、トルコは先月25日に「イスラム国」に対して空爆を開始。強行路線に転換します。米軍は歓迎していたようですが、筆者にとってこの空爆は衝撃的なものでした。一連のトルコの動きを見ていると、不安が募ります。空爆が空爆を呼び、負の連鎖は広がるばかりです。トルコ社会はAKPの政策によって分断が進んでおり、11月1日にある今年2度目の総選挙が内戦の口火を切ることになりかねないと、佐原教授は述べています。その根底には、トルコとクルドの対立が大きく関係していることは言うまでもありません。
今に始まった対立ではありませんが、本当の平和は訪れるのでしょうか。何もできない自分に無力感を覚えます。1日でも早く、このような対立がなくなることを願って止みません。
参考記事:
朝日新聞朝刊(大阪14版)7面(国際)「空爆参加でクルド牽制 トルコ、対IS有志連合入り表明」