あなたも経験あり?無意識の差別

Every man is the architect of his own fortune

「すべての人が自分の人生の設計者だ」

筆者は名言やことわざが好きで時々調べているのですが、ローマの歴史家であるサルスティウスのこんな言葉を見つけました。

自分の人生は自分で決めることができるという意味です。皆さんは上の名言を読んで何を思ったでしょうか。胸に刺さると感じた人もいるでしょうが、同時にこの訳に違和感を覚えた人もいるはずです。

「every man」が「すべての人」と訳されているのです。女性は含まれていないのでしょうか。英語のことわざでも、ほとんどの文が「a man(男性)」を主語に置いています。これらは昔ながらの古い言い回しであり、多くの人は差別だなんていちいち考えずに使っていることでしょう。しかし、こうしたことわざや名言が現代においても残っているように、当時の人々の男性中心的な感覚は、今でも無意識のうちに人々の意識に根を張っている可能性があります。つまり、知らず知らずのうちに私たちもジェンダーに対しての偏見を持ってしまっているかもしれないのです。

 

25日、第93回米アカデミー賞が開かれ、中国出身のクロエ・ジャオさん(39)が、アジア人女性初の監督賞を受賞しました。女性としては史上2人目の受賞です。「ノマドランド」は、北西部でノマド(遊牧民)のように暮らす車上生活者の生き方を描いた作品で、作品賞、監督賞、主演女優賞の3冠を達成しました。

2020年のアカデミー賞が「白人男性ばかり」との批判を受けての今回の受賞となりました。これまでの全93回のうちのたったの2回しか女性監督が選ばれていないという事実に驚きを隠せません。それだけにジャオさんの受賞の意味は重く、アカデミー賞の多様性への尊重の結果ともいえるでしょう。

一方で、わざわざ「アジア人女性初」と強調して賞賛することが、むしろ差別的なのではないかとの指摘もあります。たしかに「アジア人女性初」という話題は「アジア人なのにすごい」「女性なのにすごい」と私たちが無意識的に捉えている証左のようにも感じられます。知らぬ間に固定観念による決めつけをしてしまっていたのかもしれません。

 

人間誰しもが潜在的な偏見を持っており、それを完全になくすのは簡単なことではありません。しかし、だからこそ今回のジャオさんの受賞は、多くの人々に夢と希望を与えたと思います。女性だから監督になれないとか、アジア人だから賞を取れないとか、生まれ持った性別や人種で自分の人生が制限されるなんてことは絶対にあってはなりません。

サルスティウスの言葉を借りるならば、

Every‘one‘ is the architect of their own fortune

「すべての人」が自分の人生の設計者なのです。

 

参考記事:

18日付 日経電子版「米アカデミー賞、アジア系が躍進 コロナで多様化進む」

27日付 讀賣新聞オンライン「米アカデミー賞「ノマドランド」が3冠…アジア女性初の監督賞、「多様なオスカー」目指す」

2月15日付 日経電子版「「白人男性ばかり」のアカデミー賞に開いた風穴」