SNS新歓、焦りにご用心

4月に入り、各大学で入学式が執り行われています。筆者が通う中央大学多摩キャンパスでは今日がその日。先月末には、昨年度の入学生に向けた1年遅れの入学式も開催され、多くの学生が新たなスタートをきりました。

筆者にとっても学生生活最後の1年。これまでを振り返る機会も増えました。そのきっかけの一つが、三田誠広著『僕って何』。昭和52(1977)年に発表され、同年上半期の芥川賞を受賞した作品です。舞台は学園紛争でいくつかのセクトがにらみ合う東京の大学。地方であるF町から上京してきた主人公「僕」は、新しい暮らしに馴染めずにいます。ある日同じクラスの山田に誘われ、何とはなしにB派に身を置くようになります。同じセクトに属する学生との交流、他派との闘争を通して自分の真の居場所はどこなのか自問自答する物語です。

三田誠広著『僕って何』(角川文庫)、ヘルメットをかぶる「僕」が印象的

自分と「僕」を重ね合わせずにはいられませんでした。作中で主人公は何度も心の拠り所を求め、自分は何者なのかを考えます。上京したばかりの筆者も求めていました。結果としてフィールドホッケー部に入部しましたが、当時の心境をチームのブログにこう書きました。

「同じ出身の人も少なく、慣れない1人暮らしをする中で私は少しでも早く東京に自分の居場所を作りたいと思っていました。それなのに新歓では上手く喋れないし、自分に合うサークルはないし、周りはどんどん自分の場所を確立しているということに焦りを感じていました」

新入生の多くがこのような不安と焦りを抱えていることでしょう。しかしこれは要注意です。

 

中央大学学生部は、新入生に向けSNS利用に関する注意喚起を出しています。

中央大学ホームページより

顔を合わせての新歓活動が制限されている中、サークルや部は新入生獲得の場をSNSに移しています。「#春から○○大」というハッシュタグを用いることで在校生と新入生が簡単に交流できるからです。とはいえ得られる情報の全ては画面の上にしかありません。それだけで所属団体を選ぶのは困難を極めます。加えて画面越しの相手が本当に信頼できる人なのかも見極める必要があるのです。

「どこかに所属しないと」という焦りは、冷静な判断の妨げになりかねません。これから大学生活を始める皆さん。自身の安全を守り、トラブルを避けるため冷静に吟味しましょう。

 

参考記事:

2日付朝日新聞朝刊(東京14版)28面「心を探りあてる役割 物語に」

同日付読売新聞朝刊(東京13版)29面「村上春樹さん早大で祝辞」