保守的ではいられなくなった新聞業界

日本企業が海外企業を業界で前例のない規模で買収する例が目立っています。その中でも世界的ブランドである国際企業フィナンシャル・タイムズ(FT)を、日本の一メディアである日本経済新聞社が買収するという発表には非常に驚きました。

FTといえば世界的にも有名な英国の有力経済紙です。いち早く電子化に取り組み、紙よりも電子版の読者の方が多いことが特徴であり、世界で広く読まれる英字新聞です。この買収劇は日本の同業他社だけでなく世界のメディア界の注目も集め、詳しく報じられています。

未来を見据えた日経の積極的な投資に称賛の声があがる一方、報道機関としての編集権の独立をめぐって警戒する向きもあります。企業などの不正を追及する姿勢が評価されてきたのがFTです。朝日新聞の解説記事では、日本メディアの企業文化を「企業や政府機関を敬う傾向があり、多くの面で欧米メディアと違う」と断じる米ウォールストリート・ジャーナル紙など海外の厳しい見方を紹介しています。これに対して日経・喜多会長は記者会見で、FTの報道スタイルを変えることはない、と述べました。

では日経とFTが手を組む意味はどこにあるでしょうか。

ひとつは互いに経済紙であることだと思います。グローバル経済の下でのビジネスマンに重要なのは日本国内のニュースにとどまりません。進出対象となる地域の情報が求められています。アジアをカバーする日経、欧米をカバーするFTが情報を共有していくことで両紙の読者にとってさらに質の高い情報を提供できるのではないでしょうか。

もうひとつは電子版というビジネスモデルの成長にあります。日経は日本の新聞のなかでは電子版活用が進んでおり、FTがこれまで培ってきた電子版のリソースを活用、共有することが買収の大きな目的であるといわれています。紙で新聞を読む人口が減ってきており、かつ人口そのものも減少していく日本では、新しいビジネスモデルの開拓を通じて新規購読者を増やすことが急務であり、どの新聞社も具体策に頭を悩ませています。

紙の新聞を読むのが面倒になったからというよりもPCやスマートフォンなどそれ以上に便利で楽な情報入手手段が生まれたからこそ、紙離れが進んでいるのだと思います。電子化に乗り遅れた新聞社は、今以上に便利な情報の入手手段を編み出せばまだまだ追いつくことも可能です。ただ、そういったビジネスモデルはすぐに真似されてしまうので、やはり情報の質も重要であることに変わりはありません。

求められるのは情報の質×便利さであり、どちらかが優れていても一方が欠けた報道は見向きもされません。大きな変革の時にある新聞業界。日経・FTの今後の展開に、そして次に新たな成長の一手を打つ企業が現れることに期待したいと思います。それはどのような手法でわたしたちを驚かせてくれるのでしょうか。

 

参考記事:

7月25日付 朝日新聞朝刊(東京13版) 2.9面

同日付 日本経済新聞朝刊(東京14版) 1.3.12面

同日付 読売新聞朝刊(東京13版) 2.9面