見えているのは切り取られた世界にすぎない

「解約運動の側も、それを批判する側も、自分の正義が絶対だと思うのは危険。自分の怒りを分解し、その正当性を疑う努力が必要だ」

アマゾンが有料サービス「プライムビデオ」のCMに国際政治学者の三浦瑠璃さんを起用したところ、ネット上で批判を受け、「解約運動」が起きた問題。激しくなりがちなネットでの言論について、「『許せない』がやめられない」などの著書がある坂爪真吾さんが上記のように指摘しました。

アマゾンプライムビデオのCMに出演した三浦瑠麗さん

三浦さんへの批判の理由の1つは、2018年にフジテレビの番組「ワイドナショー」に出演した際、「北朝鮮の潜伏工作員が国内にいる」という趣旨の発言をしたことでした。在日韓国・朝鮮人への差別につながりかねないとして問題視する声が当時から出ていました。また、徴兵制の導入が平和構築に意義を持つと著書で主張していることへの批判もあります。

ツイッターを覗いてみると、確かに激しい論戦が交わされていました。しかし気になったのは、それぞれの主張が切り取られすぎていて、その背景が伝わっていないのではないか、ということ。例えば、三浦さんに関する2枚の画像を上げている方。1つは新聞記事のアップで、「徴兵制が平和を導く」という見出しと三浦さんの写真は確認できますが、本文全体を読むことはできません。もう一つの写真はテレビ番組で討論をしているワンシーンでしょうか、「戦争したくないならお年寄りと女性に徴兵制を導入すべき」と書かれたモニターの横に座る三浦さん。その投稿には6000以上の「いいね」がつき、3000以上のリツイートがされていました。コメントには、「なるほど、こんなことを発言していたんですね」と納得の声も。彼女がなぜこの主張をしているのか。その背景を理解しようとしている人はどれだけいるのだろうかと疑問に思いました。

また、この問題を受けて思い出したのは、8月4日の日経新聞朝刊の一面「民主主義 誰が動かす」という見出しの記事です。都知事選をめぐるツイッター投稿についての分析でした。議論が盛り上がっているように見えても、保守に分類される投稿者は計14万人、リベラルは11万人と、いずれも日常的にツイッターを使う日本ユーザーの約1%にすぎないという事実が書かれていました。

私たちに見えている世界はほんの一部に過ぎないこと、自分の信じる正義は、その上に成り立っているということをもっと意識すべきなのではないでしょうか。知っていると思い込んでいる世界も、違う角度から見れば誤りであった、ということも往々にして生じます。

坂爪さんは、次のようにも言っています。

「ツイッターでは価値観の近い人をフォローすることが多く、異なる価値観に触れにくい。怒りや嫌悪の感情が連鎖して拡大していく」

SNSが大きな影響力を持つ時代。「これは許せない」と思い正義感に駆られる前に、一度立ち止まってその問題についてもう少し知ろうとする姿勢を大切にしていきたいものです。

 

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊(愛知14版)25面(社会)「アマゾンCMに三浦瑠麗さん起用で解約運動」