28日、安倍晋三首相は、持病の潰瘍性大腸炎が再発したことを理由に辞任を表明した。7年8ヶ月の歴代最長政権は突然の幕引きとなった。
現行憲法のもとで病気を理由に退陣した首相は、安倍首相を除いて4人いる。そのうちの1人は「所得倍増計画」でお馴染みの池田勇人氏である。
池田辞任に関する当時の新聞を見てみると、「ヒズミ」という言葉がしばし使用されている。
「池田さんの心境 ヒズミ是正に心残り」
(1964年10月26日毎日新聞13版3面朝刊)
「高度経済成長は世界各国の目をみはらせ、国民経済を大きく高いものにした。しかし一方で経済のヒズミを生み、数々の議論に発展した」
(1964年10月26日読売新聞14版1面朝刊)
当時は物価上昇や公害など経済成長の負の側面が徐々にではあるが露呈していった時期であった。特に、公害問題は後続の佐藤栄作政権での大きな課題となった。所得倍増計画による高度経済成長は、「黄金時代」をもたらしたと同時に、様々な弊害も生み出していたのであった。そして、そのような深刻な副作用を、当時はヒズミと呼んでいた。
さて、話を安倍首相辞任に戻そう。第二次安倍政権は7年8ヶ月続いた長期政権であった。長期政権なるが故に安定感のある政治ができた一方で、弊害も生み出した。例えば、長期にわたる「安倍一強」によって生じた官僚の過剰な忖度だ。これは森友・加計問題や桜を見る会問題さらに、公文書の破棄・改ざんなど民主主義の根幹を揺るがす事態を招いた。
池田氏の後を継いだ佐藤氏は、前政権の経済成長政策を維持しつつも、公害問題などのヒズミを是正しながら安定的な成長を図る方向へと舵を切った。これから決まる後継首相にも、功績は引き継ぎつつ、誤りを正していく政権運営が求められる。
参考記事:
朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞 各紙朝刊 安倍首相辞任表明関連記事