待機児童対策の大原則を考えて

「お母さん、育休に入るんですね?」
「では、お子さんは保育園を退園してください。」
このような会話がこれから保育園で起こるとしたら、世の中のお父さんお母さんはどうするのでしょうか。2人目からは諦めるか、育休を取るのをためらうか。待機児童対策としているこの制度は逆に社会の子育て環境を悪化させてしまうのではないでしょうか。
埼玉県所沢市は親が2人目以降を出産し育児休業に入った場合に、今保育園に預けている子どもを退園させる方針を打ち出しました。これに対して、保護者は市に退園させないように求める仮差し止めをさいたま地裁に申し立てます。これまで市は親の育休中の対応については保育園長の裁量としてきましたが、国の子ども・子育て支援制度に伴い入園調整を市が一括して管理することになり、待機児童対策の一環として運用しようとしています。
私がこの記事を読んで最初に思ったことは、これで待機児童が減るのだろうか、ということです。確かに待機児童を抱える自治体はひとりでも減らしたいというのはわかりますし、働きたいと思っているたくさんのお母さんたちのためにもそうであってほしいものです。しかし、育児休業はその名の通り「休業」ですから、親が再び職場に復帰することを前提にしています。今回の制度では親が仕事に復帰する際には同じ保育園に戻れるとしていますから、一度退園させ枠が空いたとしても、それは一時的なものであって、その枠は親の育休の終了とともに埋まってしまうのです。
これでは待機児童の抜本的対策とは言えません。ただ、目先の都合で待機児童の順番を組み替えているだけではないでしょうか。また、今預けている子を退園させないといけないなら、2人目はやっぱりいいかな、と思う親もいると思います。そうでなかったとしても、産休が終わればすぐに下の子も預けて育休も取らない、ということも想定できます。
待機児童対策の根底にあるのは、女性が子育てしながらでも働きやすい社会環境を整えることです。自治体が待機児童の問題にピンポイントで目を向けてしまうと、その背景にある大きな問題の解決がおろそかになってしまいます。所沢市には社会の大きな課題を解決するための待機児童対策であるという大原則をしっかり考えてほしいものです。
参考記事:20日付 朝日新聞朝刊(東京13版)38面(社会面)「育休で上の子退園」