自分が想像している以上に、人間は脆いのかもしれない。何気ない一言に心が傷つき、最悪では死に至ることもある。「言葉は刃物だ」と言われたことがあるが、まさにその通りだ。
5月23日、女子プロレスラーの木村花さんが亡くなった。現段階では自殺を図ったとされている。また、SNSでの彼女を非難するようなコメントが原因だろうと報道された。
「お前が早くいなくなればみんな幸せなのにな。まじで早くきえてくれよ」(原文ママ)
他にも人格を否定するような内容が、数多く寄せられていた。今回、彼女がきっかけで、ネットでの誹謗中傷が注目された。しかし、このような出来事は以前から頻繁に発生しており、芸能人をはじめとして多くの人が被害を受けている。最近では、お笑い芸人の岡村隆史さんがラジオ番組で発言した内容が、女性蔑視だと非難を浴びた。放送後のSNSは彼を侮辱する言葉で溢れていた。
韓国に木村さんと似たような境遇の女性がいた。韓国アイドルグループf(x)の元メンバーのソルリさんだ。彼女はネットでの悪質な書き込みなどが原因で、うつ病を患っていたとされている。そして、自殺を図り死亡した。彼女のインスタグラムには今もなお、世界中のファンからコメントが寄せられている。
福澤諭吉の著書を現代語に訳した「現代語訳 学問のすゝめ」という本に、興味深いことが記されていた。
「また、誹謗と批判とは、非常に区別しがたい。他人に難癖をつけるのを、誹謗と言い、他人の迷いを晴らし、自分が正しいと思っていることを主張するのが批判ということになってはいる。」
「しかし、絶対の真実がこの世の中でいまだ発見されていない以上は、どの議論が正しくてどれが間違っているのかは決められない。正しい正しくないが決まらないうちは、仮に世間の多数決によって一応の正しさとするべきだろうが、何が多数意見なのかを明らかに知ることすらも、たいへん難しいのである。」
今の時代、投稿のいいね数とリツイート数などで、多数意見はすぐ分かる。しかし、「誹謗と批判の区別」「議論の正誤」は依然として曖昧で、自己判断が難しい。政府はSNSの誹謗中傷対策に関する法案や省令の改正案を年内にまとめるようだ。しかし、許されない誹謗とは何なのかをユーザーがしっかり理解しなければあまり効果はなかろう。
同じような過ちを繰り返さないためにどうするのか。私たちにできることは「余計なことをその場の感情で書き込まない」という単純なことだと思う。つまり、しばらくの間は傍観者を決め込むのだ。ネット上の「口動」ではなく、現実世界の「行動」で示す。今まで以上に自分の発言、行動に責任を持たなければいけない。
参考記事:
5月27日付 朝日新聞朝刊(大阪)14版1面「投稿者の特定 簡素化検討」
同日付 読売新聞朝刊(大阪)13版28面「SNSで中傷 追い込まれ悲劇」
6月2日付 日本経済新聞朝刊(大阪)12版3面「SNS中傷対策 年内に」
参考資料:
ちくま新書「現代語訳 学問のすゝめ」(2009) 福澤諭吉 著、齋藤孝 訳、株式会社筑摩書房 発行