検察庁法改正案の審議が山場を迎えています。ネット上で抗議の声が広まったのをきっかけに、政治家以外にも数多くの芸能人や作家、漫画家などが反対意見を表明しています。検察庁のトップである検事総長だった人までもが反対の意見書を連名で法務大臣宛てに提出しました。そのなかで、与党は週明けにも内閣委員会で採決しようとしています。
いくつかの論点があります。昨年作られた原案には役職定年の例外措置と勤務延長に関する規定がなかったのに、なぜ追加で盛り込まれたのか。特例の具体的な基準はどうなるのか。最優先でコロナウイルス感染症対策に取り組むべき時期に、拙速な審議で採決を急ぐ必要があるか。そうした疑問がつきまとっています。
国家公務員制度担当大臣は「法案提出まで時間があったので見直した」「具体的な基準は現時点でない」などと委員会で答弁しており、素人目に見ても合理性に欠けていると感じました。
ただ、政権による強引な法改正の試みが起きている根本的な原因は、検察庁の位置づけではないでしょうか。元来、検察庁は刑事司法手続きの一翼を担っており、ときには内閣や省庁、さらには政界の不正を訴追することもあります。司法機関である裁判所は、刑事事件において追及する側、弁護側双方に対して平等な視点から判断を下すべきであり、捜査能力を持っているとその判断が偏りかねません。このような理由から、検察は司法権から分離されています。かといって独立してしまえば権力を濫用して暴走することもあり得るため、行政機関の一部に組織上は分類されています。
本来はこのような経緯を十分に重んじ、検察と政権の距離感は一定程度保たれるべきです。それにも関わらず、首相は行政権に分類される事実を殊更に強調して法改正しようとしているのです。この法務省の傘下という位置づけこそが、政府による過剰な権力の行使を許してしまっている根本的な要因だと考えます。
今回の法改正は、与党の強行採決で近日中に決まってしまう可能性があります。しかし、ときの政権による恣意的な介入を防ぐためには何かしらの改革が必要です。構造的に法務省からの距離を遠ざけ、敢えて関係性を持たない別の機関の傘下に置くか、法務大臣による指揮権発動や人事の決定を厳しく制限する特例を設けるか。三権分立における検察のあり方を考え続ける必要があります。
参考記事:
朝日新聞 検察庁法改正 関連記事
参考資料:
東洋経済オンライン「『検察庁法改正案』今さら聞けない大論争の要点」