本当に今するべき発言なのか

「毎日の買い物をぜひ3日に1回ぐらいに控えていただきたい。」

「今後、10年、20年先の日本の将来を考えた時、若者が世界で活躍しやすいように、日本も世界標準の9月入学にすべきだ。」

それぞれ小池百合子都知事、吉村洋文大阪府知事の発言です。これらの提言、いささか的外れなのではないでしょうか。

まず、「買い物は3日に1回」について。ここ1か月を振り返りながら考えたいと思います。

緊急事態宣言が出た当座は、筆者の地元は閑散としていました。いつもは車が行き交う道路も、ジョギング、犬の散歩をする人がいる緑道も静か。スーパーも、レジで並ぶことはありませんでした。

しかし、1週間も経つとどうでしょう。地元のファストフード店には行列ができ、レジで並ぶようになりました。ですが、地元は住宅地なので仕方がありません。誰もが生活必需品を買いに来ているのですから。

そして現在。緑道は、人で溢れかえっています。ジョギング初心者でしょうか。汗を吸いにくい服で走る方もいます。スーパーに行くとき、近道で緑道を使っていましたが、今は車道沿いを歩くようになりました。

買い物客も増えています。ご夫婦で、家族連れでスーパーを訪れる人が多くなってきました。店頭には「最少人数での買い物にご協力をお願いします」と貼り紙がありますが、残念ながらあまり効果が見られないのが現実です。

筆者の地元は神奈川です。しかし、ニュースを見るかぎり都内も同じ状況のように感じられます。だからこそ、都知事は「買い物は3日に1回」と呼びかけたのでしょう。ですが、それを聞いて都民は、また首都圏の人はどう思ったのでしょうか。

「買い込んでおかないと」と思ったはずです。これは、都知事がいう買いだめではありません。家にこもれるようにするための「必要な」買い物です。そして手伝いがないと持ち帰るのが大変厳しいです。この発言で来店客が増えるのではないかと感じていました。

それから数日。スーパーを訪れると、何人かで買い物をしている人、カートにたくさんの食材を積みレジ待ちをする人が増えました。この光景を見て、果たしてあの発言は意味があったのか、事態を悪化させてはいまいかと思わずにはいられませんでした。

もちろん、買い物に行く回数はできるだけ減らすべきです。しかし、これは「外出は最低限に」とずっと言われていることに含まれています。回数をうんぬんするよりも、まずは1店舗ごとに最少人数での利用を強く呼び掛けてほしかった。1人がA店舗で、1人はB店舗で、と分散しても買い物は出来るはずです。もちろん小さな子供を連れてくるのは仕方ありませんが、家族そろって訪れる必要性は感じません。本当に、街の状況が分かったうえでの発言だったのか、疑問視せざるを得ません。

「9月入学論争」も同様です。果たして、それは今すぐ取り掛からなければいけないことなのでしょうか。新型コロナウイルスが9月までに収束し、通常通りの学校生活が再開出来ることなどは確約されていないのです。たとえ「9月入学」を決定したとしても、ただでさえ混乱している今、十分に準備出来るとも思えません。それなのに、今どうしてそんな話を進められるのでしょうか。

「大学入試の制度も変えられているのに、これ以上変わるのは不安が増す」

「オンライン授業が始まっているのに、今期の学費はどうなるの」

「9月入学自体には賛成でも、今ではない。コロナ対策に全力で取り組んでほしい」

テレビでは、支持する声が多く取り上げられていますが、ネットには、不安がり、疑問視する声も多く寄せられています。学校は9月からになったとしても、会社は在宅勤務を9月までという訳にはもちろんいきません。そうなると、共働きの、また母子家庭、父子家庭の子どもの預け先はどうなるのでしょうか。実現の前に、クリアしなければいけない問題があまりにも多すぎます。

実現の道筋が見えないにも関わらず、「9月入学論争」を繰り広げるのは、少し時期尚早だと感じます。世界水準にするために「9月入学」を唱えるならば、通常通り学校生活が送れる見通しが経ってから、改めて本腰を入れて議論するべきではないでしょうか。

国や自治体のリーダーたちが、新型コロナウイルスという未知の敵と戦うために全力なのは、頭では分かっています。恐らくどの選択をしても、正解だった面も間違いだった面もあるのだとも思います。しかし、「今は、コロナ対策に全力投球してほしい。」「人々の暮らしを踏まえての発言をしているのだろうか」。そう思わざるを得ない1週間でした。

参考記事
29日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面 天声人語
29日付 読売新聞朝刊(東京13版)27面(社会)「9月入学「選択肢」 文科省 17知事は緊急提言」
29日付 日本経済新聞朝刊(12版)34面(社会)「9月入学 実現への課題多く 文科省、コロナ休校で「選択肢」」