岡江さんの自宅前取材、いま必要か。

昨日午後3時ごろ、女優の岡江久美子さんが亡くなったことをネットニュースで知りました。新型コロナウイルスによる肺炎のためです。朝の情報番組「はなまるマーケット」の司会を長年勤めていた方です。一度もお会いしたことがありませんが、テレビで頻繁に見ていたからか身近な存在でした。突然の訃報に、心に大きな穴がぽっかり開いたよう。コロナの恐ろしさを改めて痛感しているところです。

Twitterでは、私と同じようにショックを受けた人のコメントであふれていました。Twitterで岡江さん関連の記事を追っていく中で、ある写真に違和感を覚えました。それは、岡江さんの自宅前に報道陣が集まっているものです。事務所関係者のマスク姿の女性を取り囲む、マスク姿の記者が20人ほど写っていました。記者同士はソーシャルディスタンスを取らず、三密のうちの「密集」の状態でした。この写真は、なぜコロナの感染を公表しなかったのかを取材した記事に添えられていました。

いまメディアは、コロナのパンデミックの終息に向けて、自粛を要請するような記事やニュースを配信しています。その張本人たちが、感染リスクの高い場所を生み出している。このことは報道の信頼を揺るがす行為だと思ったのです。

写真を撮り、記事を書いていたのは中日スポーツ。これは適切な取材なのか、問い合わせてみました。担当者は、「この写真を撮ったときの様子を知っている者ではないので、答えられない。ただ、今は対面での取材はほとんどなく、オンラインで取材を行っている」と言っていました。それでもこの写真が出たということは、この記事を書いた記者の判断だったのでしょうか。もう少し突っ込んだ取材ができたらよかったのですが、実力不足で詰めることができませんでした。

今朝の岡江さんの記事を3紙比較してみました。そこから、いまどんな取材が必要なのかが見えてきました。3紙とも基本的に、事務所のFAXの内容で構成されていました。とくに適切だと思ったのが、読売新聞の記事です。あわせてがん研有明病院の大野真司乳腺センター長に取材をしていました。

事務所は、岡江さん自身が昨年末乳がんの手術で放射線治療を行っており、免疫が低下していたことが原因ではないかと発表していたからです。読売の記事には、「早期の乳がん手術後に行う放射線治療が、新型コロナウイルス感染症の重症化を招くという科学的根拠は現時点ではなく、考えにくい」「不安な乳がん患者は治療を勝手に中断せず、主治医に相談してほしい」と書かれていました。

同様の記事は、朝日新聞デジタルでも見ることができました。乳がんを患っている人にとって、少し安心したと思います。読者と同じ視線で取材して執筆する。目配りの効いた記事だと思いました。

岡江さん関連の記事を切り抜き、比較した。24日、筆者撮影。

記者は、とにかく現場に行って、話を聞いたり、目で見たりして、ネタを取ってくることが基本でしょう。現場に行くと、さまざまな発見があるからです。私自身も、あらたにすで記事を書くときには、出来る限り足を運び、人に話を聞くことを意識しています。それでも、このコロナ禍では、その考えを変えなければならないと思います。やみくもに出歩いて材料を探すのではなく、今必要な情報はなにか、読者の目で考えて取材をすることが問われている気がします。

コロナのパンデミックでは、自分の命が危険にさらされてもいいから、ネタを取りたいという考えはあってはなりません。取材相手にうつしてしまうというリスクもあります。自分だけの話ではありません。それを本当に自覚しているのでしょうか。写真に写っている報道陣が、どんな人たちなのかわかりませんが、マスコミ全体として考えていかなければならないことのように思いました。

参考記事:

24日付 朝日新聞朝刊(東京14版)28面(社会)「岡江久美子さん死去 63歳、コロナで」

24日付 読売新聞朝刊(東京14版)26面(社会)「岡江久美子さん死去 コロナ感染」

24日付 日本経済新聞朝刊(12版)35面(社会)「岡江久美子さん死去 新型コロナで著名人の感染死相次ぐ」