〈スピード判断は『お客様ファースト』から〉
自宅近くの自動車教習所(東京都・武蔵野市)では、2月半ばから利用者にマスクを無料配布しています。かれこれ2か月経ちます。日本の医療関係者の防護服さえ足りなくなっているなか、どんな想定でマスクを備蓄していたのだろうと、気になって、この7日(火)に話を聞きに行ってきました。私も2年前に通っていたところです。
教習所の入り口に「マスクを無料配布しておりますので、着用をお願いいたします」の張り紙。7日、筆者撮影。
意外な事実がわかりました。対応してくだった担当者は「備蓄はしていなかったんです」と言い、続けて詳細を説明してくれました。「1月ぐらいに(中国での)コロナが話題になって、まだマスクが普通に手に入るときに社長の判断で買えるだけ買いました。1万2千枚」。
これは、マスクが店頭から消え、入手困難になる前のことなので、買い占めとは全く異なります。お客様を第一に考えた結果、コロナが流行ったときにはマスクを無料配布しようと購入したとのこと。なによりも驚いたのはそのスピード感です。なぜこのような判断ができたのかを直接社長に聞くことはできませんでしたが、やはり普段からお客様のことを第一に考えているから、それに尽きると担当者は言っていました。確かに、私が通っているときから、サービスが充実していました。ネイル、占い、キャンドル教室、漫画、酸素カプセルなど、待ち時間に利用することができます。
残りのマスクの数を聞いたところ、7日時点で500枚ほどになってしまったため、インターネットで追加購入をしたと言っていました。1月に購入したときより、値段は10倍もしたそうです。
そんな教習所ですが、緊急事態宣言による休業要請が出ました。4月11日から5月6日まで休業です。突然のことで、いま通っている妹は、「仮免許の有効期限6か月という期間もこの休業にあわせて延ばしてくれないと、下手したらお金が倍かかるし、免許を早く取得したい人はかなり困るのではないか」と言っていました。
残念ながら、「今のところ、法令により定められた教習期限・仮免許期限・検定期限の延長をすることはできない」とホームページにも記載されていました。行政の柔軟な対応を期待するしかありません。
国や東京都の判断が遅く、さらには休業要請はするものの補償は十分でない生ぬるい対応が目立つ中で、社長の判断はスピーディーで、素晴らしいものだったのではないかと思いました。いつか、社長にもお話を聞いてみたいと思います。
〈リーダー任せではなく、自分で判断をする〉
取材を通して、もう一つ感じたことがあります。教習所側の葛藤です。取材をした7日は、政府の緊急事態宣言が出ている中でも営業をしていました。都から休業要請が出ない限り「お客様」のために営業を続けると言っていました。
といいつつも、「緊急事態宣言の中で営業すると、従業員からコロナへの不安が聞こえてくる。胸が痛い」と言葉を絞り出すように話してくれました。それでも、都内45か所ある教習所の中で自分たちだけを休業にする選択肢はないとのことでした。行政の判断がいかに大きな影響を及ぼすのか考えさせられました。休業要請が出ない限り、働かなければならない人がいることを肌で感じたからです。皆さんも葛藤があるのです。
これだけ世界でコロナウイルスの感染者、犠牲者が増える中で、日本もさらに深刻化する恐れが十分あります。日本は医療のレベルが高いから、と安心してもいられません。コロナに感染したときに十分な治療が受けられるのかどうか。100%保証されているわけではないと思います。
この状況の中で、まず考えなければいけないのは、自分の命なのです。私は最近ずっと家にこもっています。外に出るのは散歩かスーパーに買い出しに行くときだけです。コロナが終息するまで、出来る限り人との接触を控えるべきだと思います。
従業員の立場で考えると、生計を立てるために働かなければならない事情もあるでしょうし、スーパーなどで働く人がいなければ、私たちは生きていくことができなくなります。そのことは分かったうえで、休むことができる人は休み、在宅でできる仕事は在宅で済ます。自分のできる限りのことはやるべきだと考えます。
これからは、たとえ休業要請が出ていなくても、その時の自分の状況に即して、行動することが大切だと思います。後々に後悔することのないように。
参考記事:
11日付 読売新聞夕刊(東京4版)1面「教習所 週明け休校準備 神奈川」
12日付 朝日新聞朝刊(東京13版)8面「社説 休業への支援 国の役割が問われる」