昨秋、高校生たちと交流する機会がありました。時間さえあればスマートフォンを手にとり、何かを確認している様子。覗いてみると、画面に映っているのはインスタグラムでした。
聞けば、単なる写真の投稿ではなく、「ストーリーズ」機能が便利だとか。これは、より日常的な写真や動画を投稿したりライブ配信を行ったりするもので、「ストーリー」と呼ばれています。投稿後24時間で消える手軽さから、若い世代で重宝されているようです。ある女子高生は、「投稿はしないけど、ストーリーはよく使う」と話してくれました。
彼らの会話に出てくるのは、共通の友人が投稿したストーリー。SNSを利用していなければ、もはや会話にも支障が出るのではないかと心配になってきます。
大学受験を1年後に控えた生徒たちは、スマートフォンとの向き合い方に悩んでいました。「スマホを一度開いたら終わり。気がついたら何時間も経っている」「他人からの連絡やSNSの投稿が気になって、勉強に集中できない」「勉強でわからないところを調べるつもりが、気づいたら開いた検索エンジンでネットサーフィンしてしまう」。受験勉強が始まったら解約するつもりだと言う子が複数いました。誘惑が多い環境の中、自らを律して勉強せねばならない現代の子どもたちが少し不憫に見えました。
そんな背景をふまえてか、香川県で「ゲーム1日60分」条例が成立しました。子どもがゲームやインターネットの依存症になるのを防ぐため、それらの利用時間を1日60分(休日は90分)とするものです。全国初の試みで、18日に香川県議会で可決、成立し、4月1日から施行されます。対象は18歳未満で、中学生以下は午後9時まで、それ以外は午後10時までとする目安も設けられています。
しかし、この条例が今、物議を醸しています。家庭によってゲームに対する考え方は様々であるほか、子どもそれぞれが抱える事情は異なるからです。「どのくらい遊ばせるかは各家庭の教育方針において自由に決めるもの」「何らかの事情でゲームが居場所となっている子どもが『時間制限』で行き場を失うケースが出ないよう、注意が必要」。そのような否定的な意見が、SNS上や新聞上に多く見られます。
さらに、条例には罰則がなく、その効果には疑問が残ります。思いきった取り組みではあるものの、強引かつ尚早だったのではと考えざるを得ません。
たしかに、ゲームやインターネットがなければ、子供たちの自由な時間は大幅に増えるでしょう。先述のような高校生の悩みはなくなりそうです。しかし、自ら律する力を育むことが重要であり、その役割を果たすのは、県の条例ではなく自らや家庭のルールであるはずです。
私自身、大学受験のときにはスマートフォンとの向き合い方に悩みました。スマートフォンをリビングに置いたまま部屋に籠もって勉強したり、ラインのトークを必要最低限にするよう努めたりなど、自分なりの使い方を模索したのを思い出します。抑制された分の反動が出ないよう、休憩時間にはタイマーをセットして、時間内で思いっきり使うようにしました。その結果、第一志望の大学に合格することができました。
とはいえ、一県の条例が全国規模の議論を展開させていることは、評価にあたります。国や自治体が依存症への対策を考えることは重要です。そのきっかけとして、国民全体を巻き込んださらなる議論が広がっていくことを期待します。
参考:
19日付 朝日新聞朝刊(東京14版)38面(社会)「『ゲーム1日60分』条例成立」
同日付 日本経済新聞朝刊(東京12版)46面(社会)「依存症対策 議論促す」
【お知らせ】
私事で恐縮ですが、今月末にあらたにす学生スタッフを卒業するため、本日が最後の投稿となります。拙い文章でしたが、2年半お付き合いくださりありがとうございました。春からも、記者として議論、発信を続けて参ります。またどこかで、スタッフや読者の皆様と言論を通して交流できれば幸いです。今後とも、あらたにすをよろしくお願いいたします。