国難を思わせる巨大な「嵐」が日本列島を襲う、衆院選挙を予見していたかのように。それは、並みの船舶に乗り越えられるものではない。グレン・グールドの奏でる「テンペスト」第三楽章のごとく、熱気と勢いが満ちた一種の狂気なのだ――
とでも言いたくなるような、何とも難しいタイミングで台風が接近するなか、波乱万丈の衆院選挙の戦いも終わりました。朝10時の段階では前回の投票率を上回っていましたが、午後に入ると台風の影響もあり九州地方を中心に伸び悩んでしまいました。
解散直後から、「希望の党」が立ち上がったことで民進党が分裂したり、「希望の党」に期待を寄せられない支持層に希望を与えるため枝野氏が「立憲民主党」という新党を立ち上げたりと短いようで長い一か月でした。有権者は、いわゆる「反安倍政権」と「積極的もしくは消極的自民党支持」の二つにはっきり割れましたが、野党の分裂も激しく、自民の過半数は崩せないようです。
こうした中「選挙を棄権する」という運動がおこったことで、私たちが「一票」の重みを考え直す機会ができたというのは大切なことではないでしょうか。民主主義の根幹でもある「投票」という行為は、投票したい候補者がいないから棄権するのではなく、「最良ではなくても次善の人」に投票することで効果を発揮するということを改めて考えさせたでしょう。
しかし、各党の公約や「リベラル」という言葉がいわゆる「日本的なもの」にとどまっているのも事実です。安全保障問題では、ミサイル防衛失敗の先にあるダメージの最小化、つまり「核シェルターなどの最終的な人命保護」について言及する政党はなく、「平和的対話」などの言葉を聞くと北朝鮮問題を実際よりも過小評価しているように思えます。また9条改憲では「旧来のジレンマ」を克服しようとするよりも現状維持路線が強いように映ります。現実にも内政、外交ともに問題が山積みです。
嵐は必ず去りますが、暗雲が立ち込めたままなのか、それとも快晴に恵まれ「テンペスト」のようなハッピーエンドが訪れるのか。その答えは明日になってもわからないでしょう。
参考記事:
22日付 朝日日経読売各紙 「衆院総選挙」 関連記事