暖房のきいた部屋で電子レンジを使いながら、電磁調理器のスイッチを入れる。バツンと音がして部屋が真っ暗になってしましました。電気の消費が激しくなる季節、うっかりブレーカーを落としてしまう人は多いのではないでしょうか。「サーキットブレーカーなんて、発動されるまで知らなかった」。中国の個人投資家たちは、同じく狐につままれたような気分でしょう。個人投資家たちへの教育は、一つの争点になりそうです。
中国市場を混乱に陥れたサーキットブレーカーとは、どのような仕組みなのでしょうか。一言で説明するなら、株価があまりに大きく変動した際に取引を停止する制度です。1987年10月19日、NYで株価が一日に20%も下がった「ブラックマンデー」の反省から考案されたもので、米国や日本ではすでに運用されています。本来は電気を使いすぎた時に機械がブレーカーを落とすのと同じで、暴走した市場を停止させ、投資家に冷静な判断をする時間を与える仕組みです。
中国も今年から導入していたのですが、その使われ方はひどく本筋から外れたものでした。5%の変動で15分間取引停止、7%で終日停止という厳しい基準(米国では7%、13%、20%の三段階)を設定し、今年に入って4回も発動する異常事態に陥っています。株価が下がるとブレーカーが落ちて取引停止、停止期間が解けてもすぐに停止という悪循環を繰り返しています。
各紙では政府の場当たり的な対応が批判されていますが、私は個人投資家に注目したいと思います。サーキットブレーカーの制度に慣れない個人投資家たちは、また売買を停止されるのを恐れて、「今のうちに売り払って、利益を確定してしまおう」という欲求に駆られました。結果売り注文が殺到し、取引再開直後に株価の急落する一因となってしまったといいます。日本経済新聞によると、7日は実質13分しか取引ができず、損失は投資家一人当たり約190万円に上るということです。
制度の存在を知らない、安全策を取りたいと思うのは全く自然なことで、非難されるものではありません。しかしながら、個人投資家の教育は日本も抱えている課題です。日本でも60歳以上の高齢者が資産運用を志すケースは多く、その多くが初心者です。金融機関の主催するセミナーが全国で行われており、投資や市場について基本を教えています。
モノを買って、買った時より高い値段で売る。資金の流動性は資本主義の根本原理です。個人の学習でそれを守れるなら、安い買い物ではないでしょうか。
<参考記事>
1月9日付 読売新聞朝刊3面『中国震源 荒れる市場』
1月9日付 朝日新聞朝刊7面『東証 乱調』
1月7日付 日経速報ニュース『上海株7日、7%超安 サーキットブレーカーで取引終了』