自分の「将来発症する病気リスト」を、勝手に第三者に提供されてしまう。このようなケースは防がれることになりました。ただしゲノム情報の活用はすでに浸透しており、事後的で駆け足の判断になったことは否めません。
政府は25日に開かれた専門家会合の結果を受けて、ゲノムを個人情報として扱う方針を定めました。医療や産業応用への急拡大が見込まれる中、ルールを明確にし情報の適正利用を促す目的があります。一方で遺伝子診断や研究に使う遺伝子情報の収集や、第三者への情報提供が規制されるため、難病の治療研究の妨げになるのではという懸念の声もあります。
ゲノムはすべての細胞のDNAに書き込まれた生命の基本的な情報で、健康状態や病気を左右します。難病の治療や予防のため目下研究の進められている分野ですが、新しく「遺伝子差別」という問題を生み出しました。例えば遺伝子検査の結果重病発症のリスクが判明した場合、その発症が確定ではないにも関わらず職場を解雇されたり、保険を解約されたりといった問題があります。遺伝子検査が日本に先んじて普及したアメリカでは、同様のケースで何件もの訴訟が起こされています。
資料を読んで、「こんなに利用が広がっているのか」と驚いてしまいました。25日の専門家会合(ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース)の資料からは、ゲノム情報が「社会通念上、個人情報として保護されるべきものとなった」という論旨が見て取れます。その根拠として、「取扱いの主体が学術研究機関のみならず、企業にまで広がって」いること「解析によって得られた結果による治療法の確立や、診療行為に生かす等されていること」などを挙げています。しかし、そこまで利用が拡散してから判断するのは妥当でしょうか?個人情報と遺伝子検査の関係についてアメリカでは90年代から議論されており、それらをヒントにすることもできたはずです。
遺伝子解析技術が発展を続ける中、新しく定義の必要な問題がこれからも多く出てくることが予想されます。足並みをそろえるためにも、他国の例にもアンテナを張って考える必要がありそうです。
<参考記事>
・12月26日付 日本経済新聞朝刊14版 1面『ゲノムは個人情報』
<参考文献>
・厚生労働省「第3回 ゲノム情報を用いた医療等の実用化推進タスクフォース」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000108186.html
(2015年12月26日)
・柳澤武『遺伝子情報による雇用差別』
law.meijo-u.ac.jp/association/…/60bessatsu20_yanagisawa.pdf
(2015年12月26日)