夜を徹して行われている交渉は、この記事を書いている間も続いています。2年以上にわたる長い交渉は、いよいよ大詰めに差し掛かっていますが、このチャンスを逃すわけにはいきません。12「人」でさえ難しいのに、12「国」のスケジュールを合わせることは、そう容易ではないのです。
残る大論点は、医薬品・乳製品・自動車の三分野です。特に医薬品の分野では、薬の特許の保護期間をめぐってアメリカとオーストラリアの折り合いがつかず、日程を再延長しました。新薬の開発には多額の資金と時間が必要です。せっかく作った新薬が法律の保護を受けられなくては、競合社に同じ薬を作られてしまい、十分な利益を回収することができません。特にバイオ医薬品の開発で先陣を切るアメリカは、製薬業界の非常に強いプレッシャーを背負っています。
数えるほどにまで論点の絞られてきたTPP交渉。しかしこの会議で合意ができないと「年単位で漂流」するという危機感もあります。参加した各国閣僚は多忙なスケジュールの間を縫って会議に参加しており、会期が伸びてしまうと再び日程を調整しなくてはなりません。カナダの総選挙が今月19日、来年の11月にはアメリカ大統領選が控えています。各国がTPPに今回ほど力を入れる機会は、当分やってこない可能性があるのです。
徹夜の協議が何日も続き、インタビューに答える甘利TPP相の表情にも疲れが出ているように感じます。あと一日で、もつれた議論をどうにか収束させなくてはいけません。しかし、このチャンスを逃すと12国の予定をまた合わせなくてはならず、想像もつかないほど大きな時間的損失が出るだろうということは自分にもわかります。質と同時にスピードが大切なのは、国も個人も同じことなのかもしれません。
2015年10月4日付 朝日新聞朝刊14版 2面『時時刻刻 TPP ぎりぎり攻防』
2015年10月4日付 読売新聞朝刊14版 2面『TPP 医薬品調整続く』