1.民泊と西成区
2016年、大阪府は全国に先駆けて「特区民泊制度」をスタートさせました。最大の特徴は、一般の民泊にある「年間180日」という営業制限を受けることなく、通年で事業を展開できる点にあります。この仕組みを背景に、大阪市西成区では多くの中国人実業家が戸建て物件を購入し、民泊ビジネスに参入しています。
今年8月8日に放送されたTBSの『報道特集』でも、西成で事業を展開する中国系ビジネスの様子が取り上げられています。もともとこの地で暮らし、西成の風景や人情溢れるコミュニティを大切にしてきた地元住民たちが、民泊によって退去を余儀なくされる姿が映し出されていました。
2.山王エリアを歩いてみて
月曜日の昼間、筆者は新今宮駅から徒歩10分ほどに位置する山王エリアを訪れました。ここは昭和の景色が残るディープな雰囲気が漂う地域です。アーケード商店街に入ると、「スーパー玉出」や数軒の雑貨屋が営業しているものの、多くの店はシャッターを下ろしています。地面はタイル張りとコンクリートが露出した部分が混在し、あまり整備が届いていない印象を受けます。

(西成の商店街、筆者撮影)
商店街から一本外れて住宅街へ入ると、一見すると普通の一軒家が立ち並んでいます。しかしよく見ると、扉にダイヤル式の鍵が付いていたり、暗証番号の入力モニターが設置されていたりと、民泊特有の装置が見られます。感覚としては10軒に1軒ほどの割合で民泊らしき住宅が混在していました。
さらに進むと、報道でも取り上げられていた黒い一軒家が並ぶ民泊密集エリアに着きました。印象的だったのは、黒い戸建ての前の道路だけがきれいに舗装されている点です。街を歩いていて不意に道が整備された場所に出くわすと、たいてい民泊がありました。
3.「治安が良い」とはどういう状態なのか?
山王エリアの散策後、長く日雇い労働者の街として知られてきた「あいりん地区(釜ヶ崎)」も訪れました。山王エリアの住宅街とは雰囲気が異なり、路上には吸い殻が散乱し、すれ違う人の空気感も変わります。時折漂うゴミの臭いや整備されていない道、路上生活者の多さは、私たちが一般的に想像する「治安が悪い状態」と感じます。
一方で、一見すると静かな住宅街である山王エリアですが、その実態は海外資本によるビジネスの街へと変わりつつあります。大阪府は今年5月、騒音やゴミ出しのトラブルの頻発を受け、特区民泊の新規受付を終了しました。「報道特集」では、50年住んだ家を追われ、新しく建った民泊を前に涙を流す元住民の姿が紹介されています。
「きれいな街」、「風情のある人情の街」、「治安の悪い街」。その線引きはどこにあるのでしょうか。道路が舗装されて見た目が綺麗になることが、必ずしもそこに暮らす人々の幸福に繋がるわけではないと感じます。西成で起こっている変化は、私たちが感じる「治安の良し悪し」を根本から問い直すきっかけになるのではないでしょうか
