前回の記事では、朝日新聞阪神支局襲撃事件について考えました。朝日新聞労働組合は、事件の翌年である1988年から毎年「言論の自由を考える5・3集会」を開催しており、39回目を迎えました。今回のテーマは「ジャーナリストは推せる?〜『推し活』時代のメディア」。 パネリストとして東京大学大学院教授の田中東子さん、ジャーナリストの浜田敬子さん、そして元CoCoのメンバーで現在はアイドルグループ「ショコラミ」のプロデューサーを務める宮前真樹さんの3名が登壇しました。
1. メディアの専門家たちが語る「推し活」とリスク
専門家たちの議論では、客観中立な報道を掲げながらも記者の多様な背景を記事に表すことの重要性が指摘され、浜田氏は若い記者の関心を記事にできない新聞社の構造に疑問を投げかけました。記事の背景にある記者の想いや執筆の裏側が見えることで、読者との間に新しい信頼と「推せる関係」が生まれます。しかし、田中氏はジャーナリズムが読み手に幸福感だけを与えるわけではない点を指摘し、報道の質を落とさずに「推し」の関係を築くことの難しさを挙げています。
一方で、ジャーナリストが推される存在になることには特有のリスクも伴います。田中氏は、SNS時代において国論を二分する論議のなかで、記者の考えが変われば、ファンの期待は激しい批判へと暗転しかねず、理想を押し付けられるリスクを指摘しています。また宮前氏は、メディアが特定のタブーに踏み込まない現状への不信感に触れました。アイドルのプロデューサーを務める宮前氏は、アイドル自身で自分の身を守るための教育に力を入れているそうです。だからこそ、炎上から記者を守るプロデューサー的役割の導入や、他社であっても良い報道は褒め合い、業界全体でセーフティネットを構築することが重要です。
2. ゼミメンバーで考える新しい取り組み
筆者の所属するゼミでも「ジャーナリスと推し活」という点で議論となりました。そこでは「ジャーナリストは推す必要はあるのか」が論点になりました。反対派からは「特定の意見が広まるだけではないか」という懸念が示されています。大切なのは単にジャーナリストの人気投票のような文化を作ることではなく、それを入り口として「ジャーナリズムそのものを考えてもらう流れ」を作ることという意見もありました。
報道に全く関心がない層を取り込むためには、視聴者の参加体験や、SNSを活用した単純な接触機会を増やす必要もあります。たとえば、「記者あるある」を面白いネタとして企画化し、仕事内容への関心を集める取り組みや、取材の裏側を公開してメディアのリアル感を知ってもらう試みが有効です。
他に出た意見では、若い記者自身の「推し」の取材を増やすことや、記者が個人のYouTubeで情報を発信するなどの提案がありました。同世代の活躍や実用的なニーズに応える発信には需要があるはずです。
3. 筆者の意見とメディア業界のこれから
ジャーナリストの推し活化は、激化するメディア批判の流れを押し返し、ジャーナリズムへの関心を取り戻すきっかけになるのではないでしょうか。「この人の取材を応援したい」という感情は、ニュースや新聞記事への距離感を縮めることができます。しかし、読者が推し活に全振りしてしまえば、同じ意見の人々が集まるだけの「エコーチェンバー」現象を生み出しかねません。読者は情報を鵜呑みにせず、自分の意見をしっかり持つべきであり、メディアはその判断材料として活躍すべきです。
今のままでは、ジャーナリストと視聴者や読者との間の物理的、心理的な距離は離れる一方です。大切なのは、「読者との距離をどう縮めていくか」という問題意識です。ジャーナリズムの軸を崩さないまま、いかにして人々の日常に溶けこみ、双方向的な関係を生み出していけるか。届け方の演出やSNSでの発信を積極的に取り組み、記者の人間性や情熱をストレートに伝えるなかにこそ、これからのメディアが信頼を再生するヒントがあると考えています