なかなか見えない「子供と貧困」の問題(後編)ー「あっとすくーる」の活動に迫る

この記事は2部構成です。5月4日掲載の前編は「なかなか見えない子どもと貧困」の問題について、大阪府箕面市で「あっとすくーる」を経営し、自身もひとり親家庭出身の渡剛さん(37)のお話をもとに書きました。後編は渡さんの日々の活動について深掘りします。

取材に答えてくださった渡剛さん (2026年4月)

「助けられるだけだと、人は弱くなるんです」。渡さんは、そう指摘します。生徒の8-9割がひとり親家庭。経済的に厳しい家庭で育ち、小さいころから塾や習い事に通えなかった子どもも少なくありません。「どうせ自分なんて」と口にする生徒もいます。それでも必要以上にかわいそう扱いをしないように努めています。

 

どうしてもNPOなどでは、「支援する側」と「支援される側」に分かれてしまいがちです。しかし、それでは受け手が「自分は助けられないと生きていけない弱い存在だ」と感じてしまう。だからこそ「対等な関係」であることを大切にしているのです。子どもたちに対しては、「今は一時的に助けを受けているだけで、いずれ自分も誰かの支えになれる」と思ってもらえるよう意識しているといいます。

 

その考えは、塾の運営方針にも表れています。授業料を完全無料にはせず、学生ボランティアにも謝礼を払っています。支援する側される側という上下関係ではなく、お互いが対等に関われる環境を作るためです。

 

「生徒の成績、ちゃんと上げてね」大学生ボランティアには、あえてそう声をかけるといいます。確かに、「ひとり親家庭」ならではの、将来の悩みや金銭面での不安を抱えている子どもたちは多くいます。学生ボランティアも優しい人が多く、そんな生徒の境遇に同情してしまうこと少なくありません。しかし、自身の経験からも、「自分で進路を選ぶ力が大切なんだ」と実感しています。そんな力を養うためにも、「結果に責任を持ってほしい」と指導に当らせます。

 

実はこの塾は、渡さんが大学2年生の時に応募したビジネスコンテストがきっかけで始まりました。社会課題解決型の事業コンテストで、自身も経験した「ひとり親家庭の貧困」をテーマにしたそうです。起業家らから多くの助言を受ける中で、とくに「絶対無料にしてはいけない」という言葉が印象に残っています。支援が一方通行になると、人は受け身になってしまう。その考えが、今の塾の運営につながっています。

 

コンテストをきっかけに在学中に団体を設立し、卒業後に法人化しました。当時通っていた大阪大学では、大企業へ就職する同級生が多く、NPOを立ち上げることを「恥ずかしい」と感じていたといいます。進路を聞かれるたび、「教員になるかも」とごまかしていたそうです。それでも、「塾を経営することに迷いはなかった」。

 

最初に担当した生徒は、半年で定期テストの総合点が200点上がりました。「ひとり親家庭だから不幸だ」その生徒はよくそんな言葉を口にしていたといいます。しかし渡さんと出会い、「ひとり親家庭出身でも大学生になれる。塾も経営できるんだ」と考え方が変わりました。教える側が自らの生き方を見せることで、「どんな家庭に生まれても、前を向いて生きていける。そして、その生き方が誰かの支えになる」と伝えていたのです。

 

たしかに授業料は無料ではありませんが、ひとり親家庭の受験生には、奨学金制度があります。授業料や受験料の補助、新生活支援などです。さらに、授業料の支払いが数カ月遅れている家庭には、「授業料を払ってください」ではなく「お変わりありませんか」と電話をかけます。その中で、本当に生活が行き詰まり、支払いが難しくなっている家庭に出遭うこともあります。そんな時には、緊急の食糧支援を行うこともあるそうです。「自分もひとり親家庭で育ったからこそ、分かるSOSがある」話します。

 

こうした支援の多くは、寄付によって成り立っています。一度寄付してくれた方には、月1回のメルマガ配信や年1回の活動報告書の作成などを続け、知ってもらう努力をします。中には、学生ボランティアが初任給を寄付してくれることもあるそうです。

 

かつて支援を受けていた子どもが、今度は学生ボランティアとして戻ってくる。そして、支える側になる。そんな「支援の循環」が理想です。将来的には、箕面市に住む子ども全員がアクセスできるよう、教室を増やすことも視野に入れています。

 

「生徒の数が増えても、できるだけひとりひとりに向き合う時間は減らしたくない」。渡さんは付け加えてくれました。