5月15日の読売新聞朝刊で気になる広告はなかったでしょうか。手元にある方は見返してみてください。その5面にCDリリースの広告はありませんか。
こんなことをきいているのは、タイトルにもある通り「ファンダム」について考えていこうと思っているからです。2026年の本屋大賞を受賞した朝井リョウ氏の『イン・ザ・メガチャーチ』の舞台は、ファンダム経済だったこともあって、ファンダムは旬のテーマとなりました。15日の広告は、それを考えるうえで格好の素材なのです。
広告の背景を説明しておくと、
・赤塚不二夫氏の漫画を原作とした「おそ松さん」の実写映画化第2弾が6月公開される
・主演をつとめたアイドルグループが、その主題歌を歌うことが決定
・5月14日、彼らの公式Xにおいて新聞広告掲載が告知される
・翌15日、新曲リリースに際してのプロモーションの一環として新聞に全面広告を掲載
-同日の読売新聞公式Xでも紙面の部分写真とともにポスト
という流れがあります。
彼らは、過去にもアルバムリリースやライブツアーの発表時に新聞広告を活用しています。掲載が告知されると、「読売取ってるから楽しみ!」というコメントも見られますが、「明日は、コンビニに走らなきゃ!」という反響が目立ちます。
日本新聞協会の発表によると、2025年における1世帯あたりの購読部数は約0.4と目安である1を下回り、新聞を購読していない世帯が増えてきています。そんな時代に、かなりの資金が必要となる新聞広告を掲載することは、どれほどのプロモーション効果があるのでしょうか。
SNS上のコメントから、多くのファンが彼らの広告を目当てに新聞を買いにコンビニを訪れているという事実が確認できます。つまり、この新聞広告はプロモーションとして十分な効果があったということです。それを支えているのが、「能動的なファン」の存在です。
この能動的なファンが語られる際によく用いられるのが、ファン同士の強い共同体意識を表す「ファンダム」という言葉です。近年は、それが引き起こす応援行動が研究の対象になっています。特に、SNSが普及した影響は大きく、「ファン」と「推し」の双方向のコミュニケーションが可能となったことで、能動的なファン集団が生まれてきたという考え方が最新のファン研究で得られた成果です。
昨今、部数を減らしている新聞がファンダムを用いた戦略によって、ファンに買われる。
新聞広告の事例からも分かるように、SNS時代においてファンの主体性を原動力とした新たなプロモーション戦略が進化しています。それによって、ファンは、「受動的」から「能動的」な存在へと昇格したと考えられるようになりました。
推し活市場が拡大するにつれ、ファンダムが声高に語られるようになりました。では、本当にファンの本質が変わったのでしょうか。筆者は、ファン研究やファンダムについて学び、考える機会があるからこそ、「戦略にはまってるな」と自分の行動を客観的に評価しています。CDやグッズは喜んで買っていますが、「結局、自分は資本に搾取されているんだ」と意識しながら買うのとそうでないのとでは大きな違いがあるでしょう。つまり、行動の程度を自覚できているかが重要なのです。
最初にあげた朝井氏の本を読んだ母は、ファンダムとそれを利用した経済の回し方にはじめは面白さを感じていたようですが、読むについて「なんか怖い」と思うようになったそうです。ファンダムを知らなかったから興味がわいたが、読むにつれ現実を知って怖くなったということでしょうか。
そもそも、母に限らず「ファンダムって何」と思っている人は少なくないでしょう。ファンダムプロモーション戦略について知る機会が乏しいままに、推し活社会に広がっているとすれば、ただ人生楽しいからオッケーとは思えません。その裏にはどんな意図があるのか、一度立ち止まって考えてみるべき課題があるのではないでしょうか。
参考紙面
5月15日付 読売新聞朝刊(大阪13版)5面
参考ページ
日本新聞協会 「新聞の発行部数と世帯数の推移」
https://www.pressnet.or.jp/data/circulation/circulation01.php
日本経済新聞出版 「イン・ザ・メガチャーチ」
https://info.nikkeibp.co.jp/books/campaign/121045/