減少するイギリスのパブ 減税で支える伝統文化

筆者は今年9月初め、所属するゼミの研修でイギリスを訪れました。今回は、そこで目にした「パブ」について考えます。「公共の家」を意味するパブリックハウスを略したパブは、人々が集まって飲み、会話を楽しむ社交の場として古くから親しまれてきました。

9月3日筆者撮影 ロンドンCornhillに位置するパブ

いざパブに足を踏み入れると、グラスを片手に、テーブルの間を移動しながら立ったままお酒を楽しむ人々の姿がありました。案内をしてくれた現地の人によれば、17時ごろに仕事を終えてパブに移り、1、2杯飲んで、遅くならないうちに家に帰り、家族との時間を過ごす人が多いそうです。日本の居酒屋と似通っている面はありますが、腰を落ち着けて決まった人々と飲むのが居酒屋だとすれば、パブは、その場に居合わせた様々な人と会話できる空間だと言えます。

ロンドンの街を歩くと、パブがいたるところにあるように感じました。屋外にテーブルを置く店が多く、夕方になると、店の前でグラスを片手に立ち話をする人々が集まり始めます。しかし、調べると、パブはここ数十年、減少が続いていました。

9月3日筆者撮影 パブ料理の代表フィッシュアンドチップス

英ビール・パブ協会(BBPA)のデータによると、2000年の6万800軒が25年には4万4650軒に減りました。減少率は27%に達する計算です。同協会の調査では、26年1から3月に、平均して1日約2軒が閉店したといいます(CNNより)。

CNNは、この背景には、コストや税金の増加のほか、世代間における飲酒習慣の変化もあると伝えています。また、2025年10月25日付の日経新聞によると、イギリスのパブ業界では人件費や賃料が高騰したうえ、23年に導入された建物のエネルギー消費を抑える環境規制での改修費も大きな負担になっています。ビール1杯の平均価格は5年で1.3倍の4.5ポンドとなり、客は1回の来店あたり平均1杯分を控えるようになったといいます。

 

こうした中、イギリス政府は税制の面から支援に動いています。その一つが、地方自治体が事業用資産に課す固定資産税(ビジネスレート)の引き下げです。25年11月の秋季予算案で、コロナ禍の間の暫定措置だったホスピタリティー業界(飲食・宿泊業界)向けの減免が終了となると、1000軒以上のパブが労働党議員の入店を禁止するなどして抗議しました。そこで政府は26年1月27日、パブとライブハウスを対象に、4月からの1年間の請求額を15%減らし、その後2年間は実質的に据え置くと発表しました。

当時のレイチェル・リーブス財務相は、以下のように述べました。

“If we’re going to restore the pride in our communities, we need our pubs and our high streets to thrive.” 「地域社会の誇りを取り戻すためには、パブや商店街が繁栄する必要がある」(筆者訳)

さらに7月23日には、20日に発足したばかりのバーナム政権が、家計や企業のコスト負担軽減と地域社会の活性化に向けた取り組みの一環として、イングランドのパブ、社交クラブ、ライブハウスのビジネスレートを27年4月から20%引き下げると発表しました。3万2000軒ほどが対象で、政府は1月の措置に上乗せするものだと説明しています。

アンディ・バーナム首相は次のように述べています。

“For too long, governments have stood by while cherished venues have disappeared from our local high streets. So today I am changing that.” 「長年にわたり政府は、地域に愛されてきた店が姿を消していくのを傍観してきた。だから今日、私はそれを変える」(筆者訳)

 

単なる飲み屋ではなく、地域住民が交流するコミュニティとして大切にされてきたイギリスのパブ。減税が閉店の流れを変えるかどうかは、これから明らかになります。筆者が夕暮れ時のロンドンで見た、人々が立ったまま話し込む光景が今後も続くのか、気になるところです。

 

参考資料

CNN, 2026.8.15, ロンドン中心部のパブに「立ち飲み」規制案 伝統揺るがす動きに怒りと反発の声

日本経済新聞, 2025.10.25, 英国パブ「並ばない」伝統に波紋 コストかさみ閉店増の中で論争熱く

読売新聞オンライン, 2026.1.28, 英国政府、反発受けパブへの課税15%引き下げへ…財務相「誇りを取り戻すにはパブ繁栄しなければならない」

JETRO, 2026.1.29, 秋季予算案への反発を受け、パブの救済措置を発表

Reuters, 2026.7.23, 英政府、パブなどの固定資産税20%減税へ 支援策第3弾

Yahoo!ニュース, 2026.7.27, 英国がパブの固定資産税を20%引き下げ――「地域の社交場」を守る税制支援

GOV.UK, 2026.1.27, Government announces support package that backs British pubs

GOV.UK, 2026.7.23, Burnham means business: PM slashes business rates bills for pubs, clubs and live music venues