オバマ元大統領の広島訪問から10年 核廃絶の現状は

2016年5月27日、当時のバラク・オバマ米大統領が、現職として初めて被爆地広島を訪れました。原爆死没者慰霊碑の前で述べた17分間のスピーチは、「核兵器なき世界」への道義的責任を訴え、世界に強い印象を残しました。あれからちょうど10年。オバマ氏が遺した言葉を振り返るとともに、この10年間で世界の核をめぐる情勢がどのように変化したのか、その厳しい現実を確かめます。

オバマ元大統領は原爆資料館を見学し、「私たちは戦争の苦しみを経験しました。共に、平和を広め核兵器のない世界を追求する勇気を持ちましょう」というメッセージを2羽の折り鶴とともに、芳名録に残しました。その後、平和記念公園内の原爆死没者慰霊碑に献花し、私たちに感銘を与えるスピーチをしました。

「そしてその未来において、広島と長崎は、核戦争の夜明けではなく、私たち自身が倫理的に目覚めることの始まりとして知られるようになるでしょう」という言葉で締められるスピーチでは、科学技術と人類という普遍的なテーマにおいて道義的責任を問いました。さらに、「核を保有する国々は、恐怖の論理から逃れ、核兵器のない世界を追求する勇気を持たなければなりません」と語りかけ、核兵器廃絶への努力の必要性を訴えました。

では、その演説から10年の間に核をめぐる情勢はどのように変化したのでしょうか。国際社会が歩んだ道は、オバマ氏の理想とは裏腹に、冷徹な現実の連続であったと言えるでしょう。

ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、2025年の1月時点の世界の核弾頭数は1万2241発で、昨年から160発ほど減ったとする調査報告書を25年6月に公開しています。一方で、使える状態にある世界の核弾頭は1月時点で前年同期比29発増の9614発だったと報告しています。3年連続の増加となり「世界は核軍拡の時代に入った」と結論付けました。

2026年2月5日、アメリカとロシアの間で結ばれていた核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新START)」が失効し、米ロ2か国間での核軍縮条約は全て効力を失いました。2021年には、核兵器を法的に禁止しようとする「核兵器禁止条約(TPNW)」が発効しましたが、核保有国はいずれも批准しておらず、実効性に疑義があるとされています。日本も批准をしていません。

5月22日には、核不拡散条約(NPT)の再検討会議が成果文書を採択できずに閉幕しました。この条約は1970年に発効し、核兵器の保有を米国、英国、フランス、ロシア、中国に認める代わりに、この5カ国に誠実な核軍縮交渉の義務を課し、原則5年に1度の再検討会議でその進捗を点検することになっています。2015年、22年に続き3回連続で文書の採択に失敗しました。このように、核軍縮に関して、国家間対立は一段と激しいものとなっています。

オバマ元大統領の広島訪問は、確かに歴史的な一歩でした。しかし10年が経った今、世界は冷徹な現実に逆戻りしています。さらに、被爆者の平均年齢はすでに80代後半を迎え、直接体験を伝える語り部は年々減少しています。10年前にオバマ元大統領が言った「いつか証言する被爆者たちの声は聞こえなくなる」ということが今まさに現実のものとなりつつあります。

理想が遠のき、悲惨な歴史を語り継ぐことが難しくなる時代だからこそ、10年前にオバマ氏が発した「核兵器廃絶への道義的責任を忘れない」というメッセージは、風化するどころか、かつてない重みを持って私たちに突きつけらられています。

 

参考記事:
・2016年5月28日付 朝日新聞デジタル 『オバマ氏「実は折り鶴を持ってきました」 原爆資料館で』
https://digital.asahi.com/articles/ASJ5X4TBKJ5XPTIL00Q.html

・2025年6月16日付 朝日新聞デジタル 『「危険な核軍拡競争へ」 世界の核弾頭、スウェーデンの研究所が推計』
https://digital.asahi.com/articles/AST6J0BY3T6JUHBI02SM.html

・2025年6月16日付 日経新聞 『使える核弾頭9614発、3年連続増 国際平和研「核軍拡時代に」』
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1522C0V10C25A6000000/

・2026年5月23日付 朝日新聞デジタル 『「NPTはもうダメだ」の懸念 世界の対立を象徴、簡素な文書も決裂』
https://digital.asahi.com/articles/ASV5R2HZWV5RUEFT001M.html

・2025年8月9日 朝日新聞デジタル 『薄れゆく被爆者の記憶「継承」を 核なき世界あきらめない』
https://digital.asahi.com/articles/AST873F5QT87USPT00GM.html

・2025年7月16日付 朝日新聞SDGs ACTION! 『核兵器禁止条約とは|禁止されている内容や参加国、日本の立場を解説』
https://www.asahi.com/sdgs/article/15887705

参考資料:
・外交青書2017 日米両首脳の広島・ハワイにおけるステートメント全文
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2017/html/data01.html