揺らぐ出版と書店のこれから 読書体験の行方はいかに

筆者は、本を読むなら紙派です。ページをめくる手触り、装丁、紙の質感、刷られた文字や読み進めるうちに片側が厚くなっていく感覚など、好きな点を挙げればキリがありません。こういった体験は、電子書籍ではなかなか味わえないものです。読書とは単に物語や知識を味わうだけでなく、物としての本と向き合う時間でもあるのだと、ふと感じることがあります。

しかし近年、紙の出版市場は縮小の一途をたどっています。出版科学研究所の調査によれば、2025年の紙の書籍・雑誌の推定販売金額は前年比4.1%減の9647億円と落ち込み、1976年以来初めて1兆円を割り込んだといいます。売り上げがピークだった96年には2兆6564億円に達していましたが、その後は減少傾向が続いており、現在は4割以下の水準となっています。

その一方で電子出版は伸び続けていて、2025年には電子出版市場が前年比2.7%増の5815億円となっています。電子書籍はスマートフォンやタブレットでいつでも読め、場所を取らず、検索やハイライトも簡単です。文字の大きさを自由に変えられるなど利便性が高く、価格も比較的手頃です。特にコミックの分野では電子化が急速に進み、市場の大部分を占めるまでになっています。

ただし、紙の本を愛するものとして、デジタル以外の書籍が減っていく状況には不安を感じざるを得ません。紙の本を買う人が減って刷られる冊数が少なくなれば、単価は上がりやすくなるでしょう。そうなれば本は気軽に手に取る娯楽ではなく、限られた人だけの高級品になってしまうかもしれません。

 

そうした中で、書店の未来を考える新たな動きもあります。本の街として知られる神田神保町で、老舗書店である三省堂書店神田神保町本店が3月19日にリニューアルオープンするのです。これは単なる建物の改築ではありません。「世界の入り口(Entrance to the World)」というコンセプトを掲げ、急速に変化する時代の中で新たに書店の魅力を提供するためでもあります。新しい店舗では、読書や学び、本との出会いを楽しむ場であると同時に、文化交流の拠点として人々が集う、コミュニティの場を目指しているといいます。オープンした際は、筆者もぜひ足を運びたいと考えています。

そもそも書店には、電子書籍にはない楽しみがあります。棚に並んだ背表紙を眺めながら歩いていると、それまでは全く興味を抱いたことがないジャンルなのに、気になる一冊がふと目に入ることがあります。思いがけず面白そうな本に出会う偶然の発見は、検索やおすすめ機能で本を選ぶデジタル環境とは少し違う体験です。

だからこそ、紙の本の文化がこれからも続いてほしいと願っています。神保町で新たな一歩を踏み出す三省堂書店の挑戦が、本屋の魅力や紙の本の楽しさを改めて多くの人に伝えるきっかけになれば嬉しいです。読書が身近な娯楽であり続けるためにも、こうした場所がこれからも街の中にあり続けてほしいと思います。

 

参考資料

1月26日付 朝日新聞デジタル 紙の出版市場一兆円割れ 週刊誌などが減少、書籍はヒット相次ぎ 健闘

1月26日付 読売新聞オンライン 紙の書籍・雑誌の推定販売金額、50年ぶり一兆円割れ…雑誌の落ち込み際立つ

三省堂書店神田神保町本店2026年3月19日リニューアルオープン|三省堂書店

3月16日 文化通信 三省堂書店神田神保町本店の内覧会を実施 出版関係者など多数来店