2,3㎞先、川の向こうに見えるのは北朝鮮。白い建物がずらりと並び、田畑も見える。霧がかかり、人の姿こそ目にできなかったが、生活感が伝わってきた。11月11日から5日間、韓国に滞在する中でDMZツアーに参加した。DMZは非武装地帯DeMilitarizedZoneのことで、38度線から北に2㎞、南に2㎞の計4㎞の帯状に続く地域である。休戦が宣言されてから約70年間、人の手が加わることなく、自然のままに放置されている。
薄っすらと川の向こうに見えるのが北朝鮮。11月13日筆者撮影。
ツアーでは、江華島平和展望台に訪れ、そこから双眼鏡で北朝鮮を見た。穀物の30%を収穫している穀倉地帯で、田畑の間に住宅が並んでいた。そこはかつて南に向けて「自分たちはこんなに裕福な生活をしている」と見せつけるフェイクの街だったが、今は本当に人が住んでいる。ツアー参加者の中には、人が歩いているところを見た、と言っている人もいた。残念ながら、私は見つけることはできなかったが。
江華島平和展望台、11月13日筆者撮影。
ガイドをしてくれた洪有善さん(49)は、「平壌では、スマホを持っている人が増え、韓国の化粧品を使っている人もいるんですよ」と教えてくれた。北朝鮮といえば、ミサイルの印象ばかり強く、人々がどんな暮らしをしているのかは考えていなかった。実際に平壌の様子や、穀倉地帯での暮らしぶりを双眼鏡で見ることはできないが、私たちと同じように人々が暮らしているという実感がわいた。
江華島平和展望台は普段のツアーでは訪れない。豚コレラの影響で、北朝鮮との国境付近の立ち入りが制限されているため、今の時期は特別のコースとなっている。展望内では、北朝鮮の貨幣や、2国の争いの歴史が展示されていた。その中で印象に残ったのは、2008年に起きた北朝鮮の金剛山(クムガンサン)で韓国人観光客が北朝鮮兵に射殺された事件だった。安全が確保されないことから、それ以降観光事業が中断している。今朝の読売新聞でも、この事件が起きた金剛山のことが報じられていた。
韓国側は北朝鮮に非核化措置を取る見返りに金剛山観光事業の再開を認めるとの姿勢だが、北朝鮮側はすぐに再開するよう圧力をかけようとしているということだ。事件から10年余りの月日が流れているが、両国の溝は深い。たびたび海の上でも衝突している。武力でねじ伏せるのではなく、いつか対話によって解決されることを願う。そして、訪れることができなかった「板門店」に次回は足を踏み入れたい。
参考記事
16日付 読売新聞朝刊(14版)7面(国際)「金剛山観光時用 北が再開圧力か」