失言を殊更にあげつらうつもりはない。が、あまりにも目に余る。
「復興以上に大事」「東北のほうだったから良かった」
発言者は「復興五輪」を進める五輪相、そして復興庁の最高責任者である復興相だった。東日本大震災の復興について真剣に考えているのだろうか。仙台出身の筆者は怒る気も失った。もちろん、これはごく一部のおかしな政治家の発言だと思う。大部分の政治家と官僚たちは復興のために励んでいると信じている。
ただ、復興が進む中で失われたものもある。昨日もまた、悲しいニュースが舞い込んで来た。
餅菓子製造・販売の木乃幡(福島県南相馬市)が近く裁判所に破産を申請するという。同社は主力製品「凍天(しみてん)」が有名で、福島や宮城に店を構えていた。大震災で南相馬市の工場が被災。そのうえ工場が福島第1原子力発電所の20キロ圏内に位置していたため避難を余儀なくされた。震災後は宮城県内での出店や新工場の建設で失地回復を図ったが、売れ行きは戻らなかった。
筆者も高校時代、仙台駅にあった凍天の販売店をよく利用していた。福島の伝統的な餅菓子「凍み餅」をドーナツ状のサクサクした生地で包んである。揚げたてを頬張る瞬間は至福のひとときで、放課後の楽しみだった。「サクッ、モチッ」とした食感は他では味わえない。最近も帰省した際や福島を訪れた時にはよく食べていた。
木乃幡の地元からは、凍天がなくなることを惜しむ声が出ている。南相馬市内に勤める団体職員の女性は電話での取材に「凍天は南相馬のシンボルだった。私も子どものころから食べていたのでとても残念だ」と嘆いた。
福島市の女子大生は「食べられなくなることが寂しい。揚げたての美味しさは格別だった。もっと小まめに買いに行けば良かったかな」と後悔している。
震災と原発事故の風評被害が、福島のソウルフードを奪い去った。そう言っても過言ではない。
東京商工リサーチによると、今年2月末現在、東日本大震災の関連倒産は累計1903件に達した。震災関連倒産は震災が発生した2011年3月から今年2月まで96カ月連続で発生しているという。月平均で3.6社が破綻し、被害にあった社員数は2万9142人に及ぶ。この数字は今も増え続けていることだろう。この状況で「復興よりも議員が大事」と言えるのか。また、政府の公的支援や東京電力の賠償は十分だったのか。検証する必要がある。
東日本大震災だけではない。熊本、大阪、北海道、そして西日本豪雨の被災地。全国各地で復興は続く。残念ながら、その過程で失われるものもある。だがその中のいくつかは食い止められたのではないか。無くさないためには、外からの支援が必要だ。観光でも購入でもいい。一人一人にできることがある。どうか、復興が道半ばであることを忘れないでほしい。
それにしても。どれだけ嘆いても木乃幡の凍天は戻ってこない。「サクッ、モチッ」。
また、食べたかったな。
参考記事:
24日付朝日新聞朝刊(東京13版S)25面「政治家の失言 被災地から思う」
23日付朝日新聞朝刊(東京13版S)27面(福島地域面)「『凍天』の木乃幡自己破産申請へ」
同日付河北新報朝刊(16版)28面「『凍天』の木乃幡 自己破綻申請へ」
12日付朝日新聞デジタル「『東北で良かった』から2年 新たな失言、被災者は…」
11日付読売新聞オンライン「桜田五輪相を更迭…後任に鈴木・前五輪相」
参考文献:
木乃幡ホームページhttp://www.konohata.com/smartphone/
帝国データバンク「倒産・動向速報記事」http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/4572.html
東京商工リサーチ「“震災から8年”『東日本大震災』関連倒産状況(2月28日現在)」
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20190308_03.html