朝起きて携帯電話を開くと、40通ほどのメールが溜まっている。「〇〇社採用担当」「【△△市役所】就活フォーラム出展」。ほとんどが就活に関係したものだ。大半は読まずに削除する。私にとってこれが毎朝の日課である。志望業界と無関係の業種から大量に届く採用の知らせ。起きぬけの面倒な作業にうんざりしている。
平成最後の就活戦線はバブル期並みの売り手市場だ。リクルートワークス研究所によると、19年春の大卒求人倍率は1.88倍。また、厚生労働省が先月29日に発表した今年2月時点の有効求人倍率は1.63倍。引く手数多で就活生にとって有利に見える。だが、聞こえてくるのは明るい話ばかりではない。今、リクルートハラスメント(リクハラ)に頭を悩ませる学生が少なくない。
住友商事の社員がOB訪問に訪れた女子大学生を泥酔させ、性的暴行を加えた事件は記憶に新しい。朝日新聞の報道によると、居酒屋で女子大学生に一気飲みを強要させたという。当然社員は問題発覚後に懲戒解雇された。就活生は不安や緊張を抱きながらも、夢を叶えるために先輩のもとを訪れている。そうした弱みに付け込んだ卑劣な振る舞いは到底許せない。
残念ながらこれが例外中の例外とはいえない。OB・OG訪問で嫌がらせを受ける例は他にもある。被害を聞くと、多くの場合「酒」が伴う。居酒屋に誘われ、仕事と関係のない話を聞かれ、いつのまにか二次会に誘われ…。断ろうとしても「人事と関わりがある」などと言われ、就活への影響を匂わせてくる。絡まれるのは嫌でも内定は取りたい。こうして就活生は抵抗できなくなる。就活にかこつけたハラスメントである。社会人と就活生は決して主従関係ではないのに。
本日付の朝日新聞は、大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が提唱したOB・OG訪問時の学生側の自衛策を伝えている。
①できるだけ日中に、企業内の社員食堂や近くの喫茶店で会う
②密室に誘われたらすぐ断る(まともな社会人なら密室に誘わない)
③酒席はできるだけ避ける。どうしても酒席になってしまう場合は仮に飲める体質でも「酒は飲めない」と言って、予防線を張る
これが現実だ。今どきの就活生は時に搾取の対象になり得る。売り手市場の陰に潜むリクハラに立ち向かう術を持たなくてはならない。
かくいう私も就活を始めて1カ月。ハラスメントとまではいかないが、嫌な目に遭うことがしばしばあった。
ある説明会では、採用担当者が説明する傍ら、別の社員が終始文庫本を読み耽っていた。こちらは真剣に話を聞きたいのに、目の前で時間つぶしのような振る舞いをされては流石に腹が立つ。苛立ちを抑えながら説明に耳を傾けるのはとても苦痛だった。
こうした話は枚挙にいとまがない。しつこいが友人の話も紹介する。
友人は3月に開かれた合同企業説明会で「今さら合同説明会に来ても意味がないよ。もっと早く来ないと」などと心ない言葉を浴びせられた。「じゃあなんでこの時期に説明会があるんだよ」と、友人は悔しそうに振り返る。
また別の友人はある清掃会社の選考で「最終選考はお酒を飲みながらやりますからね」と言われ衝撃を受けたという。友人は「酒がないと選考ができないのか。何か思惑があるのではないか」と動揺していた。
就活生はいつだって本気だ。授業の合間を縫って説明会に足を運び、エントリーシートに筆を走らせる。着慣れないスーツで何度も面接を受け、交通費もほとんど自腹だ。
世の中よ、就活生をなめるな。
参考記事:
10日付朝日新聞(電子版)「何度拒んでも…OB訪問でセクハラ『人事と関係ある』」
9日付読売新聞夕刊(東京3版)12面「就活生 宿屋スーツ無料」
3月29日付読売新聞オンライン「2月の有効求人倍率1・63倍…前月と変わらず」
3月26日付朝日新聞電子版「住友商事元社員を逮捕 OB訪問の大学生に性的暴行容疑」