「青春が終わる。人生が始まる」
就活生のリアルな日々を描いた、朝井リョウさん原作の映画「何者」でのキャッチコピーです。焦りや嫉妬、見栄、裏切り。就活を通して、人間の奥底にある感情が吹き出す光景に衝撃を受けました。実際の体験では、どろどろした人間関係を感じる機会はありませんでした。ですが、終わりが見えない中、それぞれが自分なりの方法で己と向き合うことの難しさと苦しみを実感しました。
まさしく、自分が「何者」であるかという問いを突きつけられる就職活動。近年、就活のルールとして、たびたび日程が変更されてきました。そんな中、経団連の中西弘明会長は、2021年春入社対象者から、新卒生の採用選考に関わる指針を廃止したいとの考えを示しました。
「通年採用のようになれば、自分が将来、どう働きたいかを常に考えるようになる」
「目安があったおかげで就活スタートまでは学業に専念できる」
「自由度があがり、自社の魅力を自由にアピールできる」
連日、記事や投書で大学生や教育人、企業関係者による賛否の声が紹介されています。
廃止の背景には、国際競争を高めたいという狙いのほかに、指針が形骸化して事実上の前倒しが起こっている現状があります。私たち2019年卒の就職活動では、説明会の解禁を3月、選考は6月からと定めていました。しかし、5月以前に選考を始めた大企業が半数以上にのぼります。「インターン」の名目で囲い込みをしている会社も少なからずありました。経団連の指針を守らなくても、罰則がないためです。経団連に加盟しない外資系企業も増えています。年内に内定をもらっている友人もいました。
実際に就活をして感じたのは、学業と就職活動が別物であること、そしてその両立を実現させるのが難しいということです。文系学部に所属しているからかもしれませんが、「大学で学んだこと」よりも、課外活動での体験や自分の性格、価値観にまつわる話題について多く聞かれたことは驚きでした。私の場合、やりたいことは決まっていましたが、企業研究や自己分析に多くの時間を費やしました。早くから就活の準備が必要になれば、学業への影響は大きいと思います。
通年制度が採用されれば、1,2年から就活一色とはならなくても、常に意識せざるを得ない状況に陥るでしょう。「インターンに参加してきた」「内定をもらった」という友人の声を聴けば、誰しも焦ってしまいます。勉学に励んだり、課外活動に打ち込んだり。好きなことをとことん突き詰められる、そんな大学生活の醍醐味が失われてしまうのではないでしょうか。また、大企業の説明会やインターン、選考に参加しやすい都会の学生が一方的に有利になってしまうと思います。
だからといって、現行のルールが最善であるとも思えません。3年の夏から就職活動が本格化しましたが、インターンや選考のためにゼミを休んだり、試験勉強が疎かになってしまったりしました。早期化は避けられないですが、歯止めをかけるため、目安となるルールは維持しつつ、日程の工夫があればいいなと感じます。例えば、長期休暇でまとまった時間の取れる3月に選考を開始したり、企業側の負担が増えてしまいますが休日にインターンを受け入れたりすることが、学生にとってのベストではないかと考えます。
参考記事 13日付 日本経済新聞 13版 5面 「就活ルール 経団連主導「おかしい」中西会長」