6月12日。ツイッターを開くとほとんどが米朝首脳会談についての投稿でした。アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長が初めて対面し握手を交わす場面はとても印象的です。通訳だけを交えた2人だけの会談の後、側近も加わった拡大会談も開かれ、共同声明では「完全な非核化」に北朝鮮が取り組み、トランプ氏が北朝鮮の体制の「安全の保証」を約束すると明記されました。
以上が昨日起こったことです。見方によって意見は異なるでしょうが、筆者の第一印象としては、やはり具体策に乏しいという感が拭えません。もともと、トランプ大統領は1日かけて金委員長と話し合う予定でしたが、結局両者ともその日のうちに帰国。会談時間が短くなるのは避けられず、結果として包括的な合意に留まる可能性が高いと日本メディアが報じた通りになりました。
長年の緊張関係にあった両国の首脳が公式の場で直接会ったこと自体は称賛されるべきでしょう。昨年には北朝鮮のミサイル発射や核実験が相次ぎ、アメリカによる先制攻撃も噂されるなど、キューバ危機以来の核戦争の危険性が現実味を帯びていたことを思えば、幾分楽観的な空気が流れているのも当然でしょう。しかし、過去何度も非核化を約束しておきながらそれを反故にしてきたのが北朝鮮です。難しい案件ですが、だらだらと議論するべきではないはずです。今も北朝鮮は核に関する研究開発を続け、制裁逃れのための瀬取り行為をしている可能性がありますから。
こうした点から言えば、共同声明の中に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID;Complete,Verifiable,Irreversible Denuclearization)」が盛り込まれなかったことは北朝鮮側の一定の勝利でしょう。
また、トランプ大統領が米韓合同軍事演習の中止やその先の在韓米軍撤退までも示唆したことは日本に大きな影響が及びます。もし実現すれば、対中国、ロシアの最前線の基地は地理的に最も近い在日米軍になり、日本の防衛戦略は抜本的な見直しを迫られる可能性があります。一方、日本の最重要課題である拉致問題は、トランプ大統領が提起したとはいえ、最終的に日朝で解決するべきでしょうし、安倍政権が安定を保っている今こそ動くべきです。
こうしてみると、今回の米朝会談で具体的な進展がなかった以上、私たちに密接に関わるこうした論点について、日本は今以上に主体的に考え、この先起こりうる大きな変化も見越して対応する必要があるのではないでしょうか。
参考記事:
13日付 読売新聞朝刊14版1面「米朝「非核化」確認」