「禁煙至上主義」に陥る外食産業

 外食業界では、分煙席を設けずに全席禁煙にする流れが加速しています。もともとは禁煙の強化には慎重姿勢でした。飲食や飲酒と喫煙の相性が良く、禁煙を徹底すると喫煙客の反発を招いて短期的には売り上げの落ち込みが避けられないからです。しかし、近年は若年層を中心に喫煙率が従来に比べて大きく低下しています。将来も見据えて、長い間顧客になりうる層を取り込むには禁煙強化はやむを得ない。そんな判断に傾いているようです。

 例えば日本KFCは、18年3月までに直営店を完全禁煙に切り替え、残りのフランチャイズチェーン店も改装に合わせて順次、喫煙できなくします。また、セブン&アイ フードシステムも約380店舗ある「デニーズ」すべてを原則禁煙にします。

 こうした状況の背景には、東京都の動きもあります。2020年の東京五輪に向けて、受動喫煙防止のために、屋内を原則禁煙とする罰則付きの条例制定に動いているのです。サイゼリヤの堀社長は実際、「都の条例制定を前提に先に動く」と話しています。

 さて、こうした動きは当然喫煙者の肩身をより狭くします。JT(日本たばこ産業)の調査によると、全国の喫煙者は1,917万人。彼らの数字は決して小さくないはずです。仕事で疲れたときや辛いことがあったとき、彼らの「至福の1本」を吸う機会を奪ってしまわないでしょうか。もちろん、タバコが嫌いな人にまで一緒に食事をするべき、と言っているのではありません。飲食店での理想は、やはり吸う人も吸わない人も共存できる分煙なのではないでしょうか。禁煙の店があっても、決してたばこの吸える店はなくならないでほしいものです。

 筆者は喫煙者ではありませんが、吸う場所がない、と煙草を吸う家族が嘆いているのをしばしば耳にします。聞こえのいい禁煙が問答無用の愛煙家たたきにならないか、一方的に「煙たがられる」時代が来るのではないか、不安でなりません。

参考記事:

21日付 日本経済新聞朝刊13版 7面(総合6)「外食、全席禁煙にカジ」