求められる、患者協働の医療

15日、16日とゼミのフィールドワークのため金沢にいたのですが、2日目にハプニングがありました。昼食の時、一人の女子学生が突然「(店内の照明が)まぶしい」と言いだし、直後に視野が欠ける症状を訴え始めたのです。ほかの学生からは「時間が経てば治るかも」という声もありましたが、彼女のただならぬ様子を見て、医師の父に電話で相談しました。

「血流に問題があるのかもしれない。何もなければそれでいいから、眼科があれば早めに受診した方がいい」と言われ、すぐに彼女と2人で一番近いクリニックに行きました。

診察が終わって彼女が戻ってきましたが、納得のいかない顔をしています。眼球には異常がない、疲れがたまっているのではないかという診断だったそうです。この頃には頭痛の症状も現れはじめ、原因がわからない不調に不安を募らせているようでした。「患者として、納得のいくまで診療を受けた方がいい」。私の話に彼女も同意したため、次に総合病院の救急外来に行きました。脳のCT検査の結果、特に異常はありませんでした。彼女は失明など最悪の事態も想定していたので、とりあえずは安心したようです。目の異常もおさまり、鎮痛薬を飲んで横になったら、だいぶ良くなったと言っていました。

この出来事を通じてまず思ったのは、国民皆保険制度のありがたみです。「日本でよかった」。友人のつぶやきにハッとしました。海外旅行先で病気になると、健康保険から給付される「海外療養費」で一部はカバーされますが、国によってはもとの医療費が極めて高額な場合も覚悟しなければなりません。何より、現地の医師に自分の病状を正しく伝えられない不安があります。

もうひとつは、患者が治療法を選択する能力は十分か、という疑問です。医師は選択肢を示して、患者の意思決定を助けているのでしょうか。日本では、医師が言うことに全幅の信頼を寄せている人も多いはずです。もちろん専門家の意見ですから尊重しますが、それがすべてではないと思います。

今日の朝日新聞の「フォーラム」は、「医療とコスト」がテーマです。「必要な薬を本当に飲んでいるかどうか、効果はどうかと一括管理してもらえる仕組みがあれば」(50代女性)、「生活習慣病で薬を処方すると、大抵の医者は薬を減らす努力を患者と共にしていないと感じる」(調剤薬局事務、女性)など、さまざまな立場から意見が寄せられています。

互いの医療費を負担し合う「支えあい」の仕組みで国民の健康が守られている日本では、医療費の問題は自分だけのものではないのだと気づきました。治療法やコストが適切かどうか、患者も医師ももう一歩前に出て話し合いの場をつくっていく必要があります。

18日付 朝日新聞朝刊(東京12版)11面(オピニオン)「フォーラム 医療とコスト」