あの景色、あの人取り戻すために

 昨年12月にテレビ局のインターンシップに参加し、厚生労働省の記者クラブを見学したときのことです。引率の記者が連れて行ってくれたのは戦没者の遺骨収集事業を扱う部署。そこで担当している職員の一人から事業の説明を聞きました。「成果がなかなか出ない取り組みではある。でも遺骨を待っている人がいる。国としてその思いに応えたい」。目に涙を溜めながら語ってくれました。戦争から70年以上経ち、遺族が高齢化していることも気持ちを焦らすのでしょう。

 そして先日、厚労省が今年度から戦没者の遺骨のDNA鑑定を民間人にも広げると発表しました。それまで鑑定には条件があり、遺族を推定できる場合に限られていたのです。これが身元特定が進まない原因の一つになっていました。

 対象地域が限られているという課題は残っています。多くの遺骨を遺族のもとへ帰すためには、さらなる鑑定の拡大は不可欠です。ですが、今朝の朝日新聞の社説の言葉を借りれば「ささやかな、しかし意義深い政策の見直し」とは言えるでしょう。

 体験した人がどんどん少なくなるなか、戦争にどのように向き合っていくのか。時間が経過する度に考えさせられます。そんなときに諦めない職員がいることがわかり心強く感じました。

 今朝の朝日新聞でも興味深い取り組みを見ました。沖縄タイムスとの共同企画「よみがえる沖縄1935」です。首都大学東京の渡邉英徳准教授のチームとともに、1935年撮影の沖縄の白黒写真を、人工知能(AI)を使いカラー化するというものです。戦前の沖縄の写真の多くは焼失しているため資料としても貴重であり、とても意義のある活動です。教育の現場での活用が期待できそうです。
 
 23日、沖縄は、太平洋戦争末期の沖縄戦の戦没者らを悼む「慰霊の日」を迎えました。「よみがえる沖縄1935」や厚生労働省による遺骨収集事業。ともに今ある技術を用いて、戦争に向き合おうとしています。その思いは現代の私たちにしっかりと届いています。

参考記事:
23日付 朝日新聞朝刊(東京14版)1面(総合)「よみがえる沖縄1935」、14面(社説)「沖縄慰霊の日 遺骨が映す戦争の実相」