「保育園落ちた日本死ね」。約1年前、ネット上に現れました。この言葉が2016年新語・流行語大賞にトップ10入りし、話題となったことは記憶に新しいと思います。とあるブログからネット上を駆け巡り、国会にも登場し、国会前のデモをも巻き起こしたこの言葉。日本の保育問題が未だ解決されていないことを、ストレートに表した言葉でした。
日本の待機児童は、約2万人超と言われています。今年の1月には「隠れ待機児童」を直視するため、待機児童の基準が変更される方針が明らかになりました。これまで厚労省は、預け先が見つからずにやむを得ず育児休業を延長した親の子を、待機児童としてカウントしていません。その数は、わかっているだけで7229人。子どもを預けられず働けないことは変わらないのに、待機児童ではないというのはおかしい話です。1月に報道されたこの方針で、待機児童の現実が直視されることになりました。
現実から目を背けないことは大事なことです。しかしながら、それだけでは保育問題の解決にはたどり着けません。もっとも必要なことは、行動すること。今回は、民間企業が解決に向けて動き始めました。日本生命保険とニチイ学館が共同で保育事業を展開することがわかりました。全国で約100か所、1800人程度の児童を受け入れられます。今回の事業の大きな特徴は、日本生命がニチイ学館から保育所の利用枠の半数を押さえ、自社営業社員に提供することです。日本生命は全国に約5万人の営業社員を抱え、その大半が女性です。子どもを持つ女性も働きやすい環境を整備し、採用競争力を高める狙いがあるようです。
このような企業が運営する保育所を、「企業主導型保育事業」といいます。2016年から、政府の補助金事業が始まり、認可保育所と同等の補助金を受けることができるようになりました。今回の場合でも同様です。また約半数の枠を日本生命が押さえてはいますが、残りの枠を地域の子供たちが利用することで、待機児童解消の一助となることは間違いありません。その反面、自治体から認可を受けていないため、安全面などで懸念の声が聞こえることも事実です。企業保育に期待して補助金を出す以上、この点の解決は必須となるでしょう。
日本生命・ニチイ学館の取り組みは、保育が誰のためにあるかを考えさせます。もちろん子どもの成長のためでもありますが、同じくらい母親のためでもあると感じます。多くの女性社員を抱える企業にとって、女性が働きやすい職場を作らねば、社員は減り企業の体力も落ちてしまいます。日本における待機児童問題は、その後ろに、子どもを持つ親の就労問題が隠れていることも決して忘れてはなりません。今回の企業保育なら、残された課題は明確です。まず保育の量を増やすには何が必要か。政府に迅速な対応が求められます。
参考記事:17日付日本経済新聞朝刊(東京13版)1面「保育所新設企業が主導」