STAP細胞の論文不正問題を扱ったNHKスペシャル、「調査報告 STAP細胞 不正の深層」。放送倫理・番組向上機構(BPO)は「人権侵害」との厳しい評価を下し、その再発防止をNHKに勧告しました。実際の放送を見ながら、取材の問題について考えます。
BPOが問題視したのは、小保方氏への名誉毀損です。取材を拒否する当人を、記者とカメラマンがエスカレーターの上下で待ち構える。こうした強引な取材方法に「放送倫理上の問題があった」としています。さらに「真実性・相当性が認められない」疑惑に基づいた編集が行われていたと指摘します。
問題のNHKスペシャルを見直してみました。驚いたのは、BPOの指摘した問題点のひとつ、元留学生の残したES細胞についての箇所です。ES細胞の混入がなかったかどうかを追う場面で、元留学生の残したES細胞が見つかった事実を伝えています。ところが実際には、小保方氏の研究期間と、ES細胞の見つかった時期は大きくズレていました。
もしBPOの指摘を読んでいなければ、視聴者は時期の違いにはとても気づけません。それぞれの出来事がいつ起こった事なのか伝え、視聴者に判断をゆだねる方法があったのではないでしょうか。
番組が膨大な取材・資料から描き出したのは、組織の自浄作用の難しさでした。当事者の一つ、小保方氏の属した理化学研究所は、自身の検証が遅れ、外部から厳しい批判を受けました。自浄作用に頼るしかなかった当時の理研とは違い、テレビ報道にはBPOなどの監視装置が以前から機能しています。科学界の二の舞にならないよう、勧告を軽視しないことが大切です。
参考記事:
2月11日付 読売新聞朝刊 1面「NHKの人権侵害 認定」
2月11日付 読売新聞朝刊 34面「NHK人権侵害認定 「配慮欠く編集」非難」
2月11日付 朝日新聞朝刊 38面「NHK「小保方氏の人権を侵害」BPO勧告」