言論・表現の自由を確保するとともに、視聴者の基本的人権を擁護するため、NHKと民放によって設立された第三者機関BPO(放送倫理・番組向上機構)。メールや電話、郵便などを通じて視聴者から放送・番組に対する意見を募集し、問題を検証する役割を担います。HP 上では視聴者の意見を閲覧することもできます。
そのBPOが設けている放送倫理検証委員会は7日、昨年の参院選と東京都知事選をめぐるテレビ報道を踏まえて、
選挙に関するテレビ番組に求められるのは、政治家の発言回数や時間などの「量の公平」ではなく、事実と適切な評論による「質の公平」である――。
という意見書を出しました。
両選挙に関して候補者の扱いが公平でない報道があったという意見に対し、どのテーマを取り上げるかは放送局自身が決めるとして放送倫理違反には当たらないとの判断を下したことになります。BPOが個別の番組ではなく、報道全般への見解を示したのは初めてのことです。
日本では、放送法によって公平原則が定められています。それでも意見書をだした背景には、14年の衆院選で自民党が「公平中立」を求める文書を送付して以降、テレビ局側に自粛モードが漂っていることへの危惧があります。現場では候補者の発言回数や時間について過度に管理したり、批判の程度を均等にしたりする配慮も見られ、放送ジャーナリズムの世界は息苦しい状況が続いています。さらに検証委は「選挙期間中に各政党・候補者の主張の違いとその評価を浮き彫りにする挑戦的な番組が目立たないことは残念」と、公平性に配慮するあまり、挑戦的な番組作りが減少することへの懸念も明らかにしました。
今回の見解が、権力に臆することなく深層を掘り起こして、政策の問題点や争点をより明確に洗い出す報道につながることを願います。ただし、都知事選で有力候補3氏のみを扱うような番組の例は少し偏りすぎているのではないかとも感じました。放送局自らの判断で角度や報道時間の違いをだしたとしても、全体を俯瞰できるような報じ方や多角的な視点を与える中立性も決して忘れてはなりません。
また都知事選では鳥越氏のスキャンダル報道や、小池氏の都議会との対立構造ばかりが取り上げられ、個別の政策を吟味する機会はあまりありませんでした。必要とされるのは、有権者が選択をする際に判断基準となる事実や考え方を広い視野から示し、建設的な議論を進める役割です。政治家の動きだけでなく、市井の声に耳を傾けたり、社会の動きを追ったりしながら政策案を考える視点こそ求められると思います。
参考記事:9日付 読売新聞 13版 37面「選挙報道の公平 質より量」
朝日新聞 12版 14面 「BPO見解 改めて問う放送の自律」